久しぶりに実家に帰ったら、親の背中を見て「歳とったな。元気がないんじゃ!?……」なんて思うことはありませんか。
とはいっても一緒には暮らしていないし、仕事はあるし、どうしたらいいんだろうと悩む人も多いはず。そこで、今回は介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子さんに、遠距離介護をストレスなく続けていくために事前に知っておきたい費用面や代行サービスの活用について聞きました!
そもそも、遠距離介護とは?
――そもそも、「遠距離介護」とはどういった状態を指すのでしょうか。
その名の通り、離れたところから行う介護です。食事や入浴などの直接的な介助はできずとも、環境を整えて親の自立を応援する活動を指します。
実家と今住んでいる場所が同じ県内でも、実家まで1~2時間かかるなんてこともありますよね。また、最近は近くに住んでいるんだけど、親子関係がよくないとか、心の距離があるからと、「遠距離介護」と表現する方もいます。
――筆者は独身なのでまだ身軽ですが、結婚して子どもがいるとなれば地元に戻るのも難しいですよね。
それなんです。兄弟姉妹の中の独身者が頼られやすいんです。でも、独身の方は、一人で生計を立てなきゃいけないでしょう。安易に介護のために今の職場を辞めて親元に戻った結果、今度は地元での再就職ができないなんてこともあるんです。
親も介護する側も、みんなが納得できるかたちならいいですが、それがなかなか難しいんですよ。兄弟姉妹間でもめることも多いので、介護が始まる前にとにかく話し合うことが大事だと思います。
遠距離介護のメリット・デメリット
――そんな遠距離介護ですが、メリットもあると聞きました。メリット・デメリットを教えてください。
メリット・デメリットをまとめるとこのようになります。
■遠距離介護のメリット・デメリット
メリット
・お互いの生活を変えずに済む
・喧嘩になりにくい
・介護保険サービスが受けやすい
・特別養護老人ホームに入居しやすい
デメリット
・何かあってもすぐ駆けつけられない
・交通費などの負担が大きい
・周囲から非難を浴びるケースもある
メリットとしては、お互い生活を変えずに済み、介護環境から自宅に帰れば気持ちをリセットできるので喧嘩になりにくいことなどです。一方で、やはりデメリットも。特に見落とされがちなのが交通費です。遠くに住む親に会うためにはお金がかかります。その他、時間も体力も必要です。
――周囲から非難を浴びるというのは?
地方だと特に、「同居して介護するべきだ」という考えが残っていることもあるので、周囲の人に「一緒に暮らせばいいのに」と言われてしまったり、陰口を叩かれたりすることもあります。
地元に戻って介護できないのは、子どものせいではありません。社会の仕組みが変わったので、仕方のないこと。でも、罪悪感から無理して頑張ってしまう方も多いんですよね。単身介護赴任になるケースや、介護のために長期間帰省するケースもあります。
遠距離介護のために準備しておきたいこと・在宅介護にかかる費用
――遠距離介護が始まる前に、事前に準備すべきなのはどんなことでしょうか。親と話しておくべき内容や、情報収集すべきことについて教えてください。
お互いの負担やストレスにならない、持続可能な在宅介護をするには準備が重要です。以下のことを話し合っておくと良いでしょう。
①からだが弱ってきたらどこでどのように暮らしたいか
親の人生と子の人生は別です。「心身が弱ってきたらどこで誰から介護されたいか」できるだけ本人の意思を尊重したいものです。親本人の気持ちがわからなければ、どちらに向かってサポートすればよいかわからず困ることに。ただし、判断力が低下するなどにより、「場合によっては親の意向に沿えなくなることもあるかもしれない」と伝えておきましょう。
②お金はどのくらいあるか
介護にかかるお金は原則、介護されるご本人のお金で。在宅介護であれ、施設介護であれお金はかかります。予算がわからなければ、どんな介護をできるか計画できないので、ざっくり貯えや年金額を聞いておきましょう。本人がお金の管理をできなくなった場合、どのお金で介護をすればよいか、そのありかや引き出し方も聞いておきたいものです。どんな保険に入っているか、ローンは残っていないかなども確認を。
③延命治療の意思について
遠距離に限った話ではありませんが、最期のときがきたら、どのように迎えたいか聞いておきましょう。延命治療を希望するかどうか聞いておかないと、医師に問われたときにどうしてあげたら良いかわからず悩むことになります。兄弟姉妹間で意見が合わず、揉めるケースもあります。できれば、書面に残してもらうのがおすすめです。
自分が亡くなった後の相続やお墓の話は饒舌になる方もいますが、介護の話はみなさんあまり話したがりません。でも、しっかり話して、残りの人生をどこでどう生きたいかを考えてもらう必要があります。
介護が現実化してから家族会議をすると、神妙で言いたいことが言いづらい雰囲気になってしまいます。できれば親が元気なうちに、家族でざっくばらんに話し合っておくといいでしょう。変に期待を持たせてしまわないように、自分ができること・できないことを伝えておきましょう。
――介護サービスを利用する場合はどこに相談すればいいんでしょうか。
親の住む地域の地域包括支援センターに早めに相談するといいでしょう。
▼詳しくはこちらの記事をご覧ください。
公的な介護保険だけで大丈夫?介護がまだ遠いうちに知っておくべき基本とは
――介護が始まって、親の様子を見に行くのは、どれぐらいの頻度で行く方が多いんですか?
自宅から親元までの距離にもよりますし、人それぞれですが、「月に1回、通院や役所の手続きをできるよう平日も含めて2泊3日程度」がよく聞くパターンです。調子が安定していると隔月、悪いと月2回の場合もありますね。もちろん毎週介護に通う人もいます。
――遠距離介護にはどういったお金がかかるのでしょうか。
本当に人によってまちまちですが、前述の通り、まず考慮すべきは交通費ですね。ガソリン代や高速代、新幹線や飛行機代のほか、金曜日の仕事終わりや土曜日の朝に実家に向かう場合はとにかく時間がないので深夜・早朝の移動にタクシーを使うことがあるかもしれません。
あとは留守にする自宅にて「普段料理をしているお母さんがしばらく介護で帰省する」ことになったら、その間の家族の食事は外食になることもあります。また、帰省時の親戚や実家の近所へのお土産代を要するなど、介護のお金以外にも結構出費がかさむんです。
そういったことも考慮して、自分の場合どのくらい介護にお金がかかるかを計算すると良いでしょう。負担が大きい場合、家族で話し合って親本人や、あまり帰省できない兄弟姉妹が交通費を出すケースもあります。
――さすがにそこまでは想定していませんでした。
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――頻繁に様子を見に行けない遠距離介護では、家族以外の見守りサービスなどが必要になるときもあると思います。どのようなサービスを利用すればいいでしょうか。
まずは食事の宅配などからお願いするのがいいと思います。自治体によっては、乳酸菌飲料を配ったり、配食サービスをしていたりするところもあります。定期的に配達員が対面で手渡しして、何か異変を感じたら連絡をくれます。
あとは冷蔵庫を使うと離れて住む家族のスマホに通知がくるアプリやロボット型の見守りサービス、ボタンを押すと緊急通報ができるペンダントなどもあるので、活用することを検討してみてはいかがでしょうか。
――認知症などの病気で要介護度が上がると、在宅の遠距離介護は難しいのではないかと思いますが、施設に入る判断基準などがあったら教えてください。
これまで親が施設に入居されたケースをたくさん見てきました。統計をとった訳ではありませんが、子が親の施設入居を決断したケースで多いのが以下のケースです。
- 親が一人でトイレに行けなくなったとき
- 親が火の始末をできなくなったとき
- 親が食事をとらなくなったとき
- 介護者までが倒れそうになったとき(心身不調のほか、介護離職なども含む)
- 「要介護 4」となったとき
また、一方の親が要介護で、もう一方が介護を行っている場合、共倒れしないよう介護を行っている親へ配慮することも大切です。
――最後に遠距離介護をするときの心構えについて教えてください。
大事なことは無理をしないこと。たとえば、実家の近くに戻ってこられないことに負い目を感じて、「心配だから月2回は帰るよ」と一度言ってしまうと、回数を減らしにくくなってしまいます。途中で帰省回数を減らして、親から「お前は冷たくなった」と言われてしまったなんてケースもあります。
1年間なら頑張れたとしも、介護期間が長くなって5年、10年と続けられるか。そういうことも考えて、事前に家族親兄弟でしっかり話し合っておきましょう。