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両親が元気なうちに話し合いたい! もしものときに慌てないために相続を学ぼう

阿部桃子
イラスト
前田はんきち
UPDATE
2021/06/14/
年末年始こそ話し合いたい!もしものときに慌てないために相続を学ぼう

親が亡くなったらどうするか?というセンシティブな問題を先延ばしにしている人も多いかもしれません。しかし、家族が亡くなったときにするべきことは膨大にあり、ちゃんとした知識がないとかなりの損をしてしまうことも……。そこで、全国相続診断士会会長で上級相続診断士(※)の一橋香織さんに、家族が元気なうちに準備しておくべきことを聞いてみました。
※上級相続診断士……一般社団法人相続診断協会が認定する民間資格

【登場人物】

【教えてくれた人】一橋香織さん
相続診断士(※)事務所・笑顔相続サロン代表。外資系金融機関を経て、ファイナンシャル・プランナーに転身。これまで3,000件以上の相続・お金の悩みを解決した実績を持つ。システムダイアリー社の『エンディングノート』監修。『家族に迷惑をかけたくなければ相続の準備は今すぐしなさい』(PHP研究所)、『終活・相続の便利帳』(枻出版)、共著『相続コンサルタントのためのはじめての遺言執行』(日本法令)他著書多数。
※相続診断士とは、相続に関する知識を持ち、お客様と一緒に相続と家族の問題に向き合っていく仕事。相続のトラブルが発生しそうな場合には、税理士、司法書士、行政書士、弁護士などの専門家と一緒に、 問題解決のサポートをします。生前から相続問題や想いを残す大切さを伝え、相続を円滑に進める水先案内人として社会的な役割を担います。

一橋香織さん

【話を聞く人】松山さん
30代女性。夫と子どもと3人暮らしだが、離れて暮らす両親は土地や家があり、いくらかの財産もある模様。両親はまだまだ元気だが、高齢者に差し掛かり、あちこち病院通いしている様子。そろそろ終活についてじっくり話し合いたいと思っている。

松山さん

親に切り出す魔法の言葉とアイテム

先日、友だちがお母さんを亡くして、悲しいのはもちろんのこと、葬儀や相続のことなど、とても大変だったそうです。そういう話を聞くと、親が元気なうちに少しずつ先々のことを話さなきゃいけないタイミングなんだな、と思っているんですが、正直話しづらくて。

松山さん松山さん

親御さんのいわゆる終活の話ですよね。終活の話となれば、お葬式の場所や金融資産がどこにあって、誰にどう分けるのかという話まで、詳細に決めなければいけないことが多くあります。

またご両親が元気だからこそ、終活の話はしづらいというのもわかります。ただ、元気なうちにご両親と時間をかけて準備することは決して悪いことではありません。逆に将来について相談したからこそ家族の時間を大事にしようという気持ちになってより家族の絆が深まることもあるようですよ。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

ただ、わかっていても終活の話ってなかなかしにくいんですよね。まだまだ親は元気なのに、「亡くなるのを待っているのか?」 「財産を狙っているのか?」なんて思われたら嫌だなって。

松山さん松山さん

日頃から親御さんとコミュニケーションをしっかりとっておくことが大切ですよね。そして帰省したときも、いきなり終活の話を切り出すのではなく、まずいろいろな会話をすることが大切だと思います。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

どんな話から始めましょう……。

松山さん松山さん

そうですね、例えば、しみじみと、「お父さんとお母さんのおかげで幸せな人生を送れている」と感謝の気持ちを伝える。次に、自分が生まれた日の話、名前の由来などについて話しながら、じわじわと核心に迫って行くのはどうでしょう。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

うちの父なんか、照れてしまいそうですけどね。

松山さん松山さん

エンディングノートを紹介するという手もあります。エンディングノートとは遺された家族への連絡帳のようなもの。銀行口座、通帳や印鑑の場所、延命措置、葬式についてなど本人の希望や家族への想いを記しておくものです。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

そんなものがあるんですね。直接色々と踏み込んで聞くのは大変そうですが、会話の中でエンディングノートを紹介するぐらいならできるかもしれません。ちなみに、エンディングノートではなく、親に口頭で言われたことを実行するのではダメなのでしょうか?

松山さん松山さん

「口で言ったからいい」という方もいるのですが、実際に遺族が故人に生前言われた通り自然葬にしようとして、親戚の方から、「墓参りしたくないから?お金がないから?」と責められたケースがありました。その点、遺言書やエンディングノートなどの直筆の書面があれば納得してもらいやすいですね。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

そういったトラブルもあるんですね。両親にもエンディングノートを薦めてみようと思います。
……それで、もし家族が亡くなったときにはどんな手続きをするんでしたっけ。死亡届を出してお葬式をして、あとは想像もつかないのですが……。

松山さん松山さん

家族が亡くなったらこんなに大変

まず親が亡くなったらすべきことは、儀式、届け出、相続の3種類に分けられます。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

●儀式……葬式、四十九日等
●届け出……死亡届、世帯主変更届、健康保険の喪失届、年金受給権者死亡届、公共料金の名義の書き換え、クレジットカードや身分証の返還、死亡保険金の請求等
●相続……遺言の確認、相続人の確定、相続財産の確定、相続の承認または放棄、遺産分割協議、財産の名義変更等

儀式については参列されたご経験があると思いますので、大体想像がつくかもしれませんが、届け出を行ったご経験がある方は少ないのではないのでしょうか。届け出するタイミングにも、それぞれ期限があるんですよ。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

死去後の手続き

こんなに大変なんですか(絶句)。しかも相続に関しては聞き慣れない言葉ばかり……。相続については何から始めれば良いのでしょうか?

松山さん松山さん

相続人がやるべきことは、遺言書の有無で違ってきます。もし遺言書がない場合、基本的には法定相続分を目安として全相続人で遺産分割協議をし、遺産分割が行われますので、まずは相続人の確定を行わなければなりません。その際、相続する人が亡くなった方の出生から亡くなるまでの連続した戸籍を取り寄せて、法定相続人(相続する人)を確定させる必要があります。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

そこからですね……。

松山さん松山さん

戸籍を取って初めて、お母さんと前夫との間に子どもがいたことが判明したケースもありました。その場合、その子どもを探すことから始める必要があります。相続人が確定したら、相続財産の確定もしなければいけません。相続財産とは土地、家、株式などの金融資産、さらに借金などですね。それを洗い出して初めて、相続人の間で遺産分割協議を行います。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

遺言書がない場合は、色々と調べることから始めないといけないんですね。遺言書がある場合はどうなりますか?

松山さん松山さん

まず前提として、遺言書といっても実は一般的な普通方式と言われるものでも3種類もあります。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

自筆証書遺言…遺言者本人が自筆で作成して家などに保存したもの。作成費用がかからない分、相続が発生する際には家庭裁判所で検認の手続きが必要。ただし2020年の7月から民法が改正されて、法務局に自筆証書遺言を預ければ(1件3,900円)、相続発生時に家庭裁判所での検認が不要に。

公正証書遺言…公証役場で作成するもの。公証人が関与するので形式不備の恐れがなく、紛失や改ざんのリスクが減るメリットがある。こちらも相続発生時に家庭裁判所での検認が不要。ただし、立会人が2名必要。公証人に手数料を支払うなど、自筆証書遺言に比べて費用がかかるというデメリットも。

秘密証言遺言…自分で作成した遺言書に封印をして公証役場に保管を依頼するため、遺言内容は公証人に知られずに作成できるもの。亡くなるまでは内容を誰にも知られたくないという場合に利用されている。

遺言書の種類にも色々あるんですね…!

松山さん松山さん

どの遺言書にも、どの資産をだれに相続するというような内容が含まれているので、その後はその遺言書を尊重して相続の手続きを進めていくことになります。ただし、遺言書に記載のない財産がある場合は、相続人全員で協議する必要がある点には注意が必要です。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

家族が亡くなったらこんなに大変

遺言信託を利用するメリット

ここまでお話を伺ってきて、親が亡くなったあとの手続きがいかに大変か分かりました。遺言書を作成してもらうのも色々種類があって難しそうですね。苦労せずスムーズに、乗り切る方法はないでしょうか?

松山さん松山さん

金融機関に依頼するのも一つの手です。「遺言信託(遺言執行引受予諾業務)」というサービスがあって、依頼者の考えに沿って遺言作成をサポートして、遺言書を保管。亡くなられたときには相続人への遺言書の内容説明、相続財産の調査・相続手続きや財産の引き渡しまでサポートしてくれるんです。何かと対応すべきことが多いなかでもスムーズに進めることができますよ。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

へ―、いろいろやってくれるサービスなんですね。

松山さん松山さん

はい、証券会社や銀行に複数の口座を持ち、複数の不動産を保有している方におすすめです。また、相続人が遠方に住んでいる場合や、高齢でいろいろな手続きに対処できない場合などにも便利です。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

私の親も株式投資しているみたいだし、遺言信託を利用するのも良いかもしれません。ほかに遺言信託を始めるメリットはありますか?

松山さん松山さん

遺言の内容って結構変わるんです。例えば、財産が増えたり、孫が生まれたから相続人に入れたいとか。遺言信託を利用すると、サービスを申し込んだ金融機関が定期的に「財産の内容変更がないか」を聞いてくれたりして、遺言書を最新の状態に書き替えることができます。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

それは助かります。親が何歳くらいになったらすすめたらいいでしょうか?

松山さん松山さん

遺言書の作成はご両親が元気なうちにやってもらうことが大前提です。

日本の法律では15歳以上の人が遺言書を書き遺すことができる一方で、例えば若年性アルツハイマー、重度の脳疾患で判断能力がなくなった方は、30歳、40歳でも遺すことができないんです。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

なるほど。そうなると、エンディングノートにしても遺言や遺言信託にしてもできるだけ早いほうが良さそうですね。

松山さん松山さん

知らないと損してしまうポイントは?

最後にまだ聞いていない中で、知らないと損してしまうポイントはありますか?

松山さん松山さん

まず相続税の申告は、相続を知った日の翌日から10ヵ月以内にしなければなりません。10ヵ月以内に申告と納税をしないと、延滞税等がかかってしまいますし、いろいろな相続税の特例制度が使えなくなります。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

特例?

松山さん松山さん

一定の要件を満たすと受けられる税制の優遇制度です。例えば配偶者の特例でいうと、配偶者の納税軽減といって、配偶者が相続する財産の評価額が1億6千万円までか法定相続分までは相続税がかからなくなります。それが、10ヵ月以内に申告をしないと特例が使えず税金がかかってしまいます。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

それはもったいない!

松山さん松山さん

あとは、小規模宅地等の特例。亡くなった人が住んでいた土地のうち330㎡までは一定の条件を満たす親族や配偶者がその宅地を相続した場合、その宅地の評価額を80%減額できるという制度です。

例えばご実家の相続税評価額が1億円の場合、小規模宅地等の特例を利用すれば80%減の2,000万円で済ませられます。

もちろんこちらも10ヵ月以内の申告が条件。そうとわかっていても、相続人の遺産分割協議でもめて、納税申告が遅れ、特例が受けられなくなるケースもあるんですよ。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

期限内に手続きを終えなければいけませんね。

松山さん松山さん

その他として、相続の放棄をしたい場合、相続が始まったことを知った日から、3ヵ月以内にしないと放棄ができなくなるので要注意です。もし親に借金があった場合は、その借金を子どもが相続してしまうことになります。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

なるほど、親に借金があった場合は注意が必要なんですね。

松山さん松山さん

以前、「両親が3歳のときに離婚して以来、長年会っていないお父さんが半年以上前に亡くなり、そして10日前に借金取りから私がお父さんの借金を相続したという通知が来たんですが、自分が払わなければいけないですか?」という相談に来た方がいらっしゃいました。

この領域は法律相談になるため専門家にきちんと確認しましたが、相談者さんが借金を相続したことを知ったのは10日前ですから、そこから3ヵ月以内に相続を放棄すればいいので、まだ間に合うことを伝えました。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

怖いですね。知らなかったら、慌ててしまいそう!

松山さん松山さん

いざ大切な人が亡くなったら、気持ちも混乱しているし、複雑な手続きに忙殺されながらお葬式や相続のことも考えなければならず、本当に大変です。
とはいえ、死後の準備をしっかりしておいてもらえば、大事な人の死を受け止めて、しっかりと死を悼むこともできます。遺す人も、遺される人も、準備はしっかりとしておきたいですね。

一橋さん相続診断士・
一橋さん

今日は色々と勉強になりました。次に親に会うときに勇気を出して話してみようと思います。

松山さん松山さん

監修:高橋大祐さん/税理士・税理士法人HOP、木野綾子さん/弁護士・法律事務所キノール東京

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