昨年末に会社の経理部から「これ、年末調整ね」と用紙をもらったのですが、そのまま何もせず、提出期限が過ぎてしまいました。先輩には「ちゃんとやらなきゃダメじゃない!」と怒られちゃったのですが、もしかして損したのかな? そもそも、年末調整って何なのかすらよくわかっていなくて。
次回こそはちゃんと年末調整したい! そのための節税対策も知っておきたい! そこでファイナンシャルプランナーの坂本綾子さんに聞いてみました。
年末調整で、払いすぎた税金が戻ってくる!
社会人1年目。今は仕事を覚えることに精一杯で、お金に関する知識は限りなくゼロに近い。
そんな俺にも、年末調整の資料が配られたのですが、ちょうど忙しい時期でスルーしてしまいました。そもそも年末調整っていうのがよくわかっていなくて……。
森田くん
森田さんのように会社員の方は、毎月のお給料から税金(所得税)が天引きされていますね。その税金額がいくらになるのかは、会社が計算していて、そしてその税金は、会社から国に納められています。
坂本さん
森田くん
ただ、毎月天引きされている金額はあくまでも仮に計算された数字であり、その年の所得税が確定する時点で再度計算されるんです。そして、多く徴収していれば従業員に還付され、足りなければ追加徴収する仕組みになっています。
坂本さん
毎月引かれている税金は、「この従業員の税金はだいたいこのくらいだろう」という概算で決められているんですか?
森田くん
そうなんです。また、日本の税制度は事情がある人には税金を安くしてあげる仕組みがあります。これを控除といいます。一定の金額を差し引く、という意味ですね。
坂本さん
森田くん
養う家族がたくさんいる、保険に加入しているなどの事情です。ただ、会社側は、その人がどんな家庭の事情を抱えているか、どんな保険に入っているかなんて、わからないですよね。だから従業員が、保険料控除証明書などの書類を付けて、自らの事情を申告するんです。
坂本さん
そうしないと会社は、正確に控除できる金額が算出できないんですね。
森田くん
はい。そもそも日本の所得税の計算は、収入の額面に直接税率をかけるのではなく、収入から控除できるものがあれば引き、引いたあとの金額(課税所得)に税率をかける方式です。その税率も、課税所得に応じて税率も変わる累進課税となっていて、最低5%~最高45%へと上がっていきます。
坂本さん
つまり利用できる控除は利用して、課税所得を少なくすれば、支払う税金の金額を少なくできるということ??
森田くん
そのとおりです。会社からもらう給料が同じでも、控除が多い人は課税所得が少なくなり、支払う税金も減ります。
また、先ほど所得税が少なくなると申し上げましたが、会社員の場合は所得税に加えて住民税も支払っていることはご存じですか?
坂本さん
森田くん
給与明細で確認できますが、社会人2年目からは住民税も毎月お給料から天引きされるんですよ。お住まいが新潟市なら、住民税は新潟県と新潟市の両方に払います。
会社で年末調整をもとに算出した課税所得などのデータは、社員が住んでいる自治体に共有されます。すると自治体は住民税の計算をし、その金額を会社に通知し、従業員の給料から天引きされるようになるわけです。
坂本さん
▼住民税についてはこちら
ふるさと納税・iDeCo・生命保険の加入者は必見!「住民税決定通知書」の見方
ややこしいですが、ちゃんと年末調整しないと、所得税・住民税のダブルで払いすぎる可能性があるということですね。
森田くん
節税対策ならiDeCo(個人型確定拠出年金)
先ほど個人の事情に応じて税金が控除されるというお話がありましたが、控除にはどんな種類がありますか?
森田くん
坂本さん
控除名 |
控除参考額 |
主な適用要件・備考 |
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基礎控除 |
一律48万円 |
すべての納税者に適用
※合計所得金額が2,400万円までは48万円、 2,400万円超の場合、金額に応じて減額 |
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配偶者控除 |
最高38万円 |
配偶者の合計所得金額が48万円以下
※納税者の所得金額に応じて変動、 70歳以上の場合は最高48万円 |
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配偶者特別控除 |
最高38万円 |
配偶者の合計所得金額が48万円超かつ133万円以下あり、納税者本人の合計所得金額が1 ,000万円以下
※納税者・配偶者の所得金額に応じて変動 |
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扶養控除 |
38万円 |
一定の要件を満たす扶養親族がいる場合
※特定扶養親族63万円、 老人扶養親族58万円または48万円 |
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生命保険料控除 |
最高12万円 |
生命保険料を支払った場合
※平成24年以降の契約分を含む場合 |
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地震保険料 |
最高5万円 |
地震保険料を支払った場合 |
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社会保険料控除 |
該当する
社会保険料全額 |
社会保険料を支払った場合 |
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小規摸企業
共済等掛金控除 |
該当する
掛け金全額 |
小規模企業共済の掛け金や確定拠出年金の掛け金を支払った場合 |
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障害者控除 |
27万円 |
納税者本人、控除対象配偶者または扶養親族が障がい者
※特別障がい者の場合は40万円または75万円 |
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寡婦(寡夫)控除 |
27万円 |
納税者本人が寡婦または寡夫
※特別の寡婦は35万円 |
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勤労学生控除 |
一律27万円 |
納税者本人か勤労学生 |
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すべての納税者に適用されるのが基礎控除。こちらは一律48万円と決まっていて、年末調整でわざわざ申告しなくても大丈夫です。
続いて、家庭の事情で決まる配偶者の有無(配偶者(特別)控除)、16歳以上の子どもが同居しているか(扶養控除)などですね。
これらと、生命保険や地震保険等の保険料控除を申請される方が多いですね。
坂本さん
僕みたいに独身で保険も入っていないと、あまり影響がない気もするけど。
森田くん
この表に小規模企業共済等掛金控除と書かれてあるのがおわかりでしょうか。小規模企業共済とは小規模企業の役員の方やフリーランスなどの個人事業主の方向けの制度なので会社員は使わないのですが、iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入していればこの枠に入ります。
坂本さん
森田くん
個人で加入できる年金制度のことです。森田さんの会社には、企業年金はありますか? なければ、月額2万3,000円まで掛金がかけられ、年末調整で全額が控除の対象ですよ。
つまり、毎月23,000円×12か月=276,000円が控除され、節税効果が期待できます。ただしiDeCoは60歳以降にならないと受け取れないので覚えておいてください。
ちなみに、皆さんが比較検討される「NISA」は、運用益は非課税になりますが、掛金は控除されませんので、どちらで運用するかは、必要になる時期を考えて自分に合った投資方法・商品を選んでくださいね!
坂本さん
今できる節税対策ならiDeCoが良さそうってことですね? でも月々2万3,000円を60歳まで払い続けられるのか……。
森田くん
iDeCoは年に1回掛金の額を変更できます。なので、経済的に余裕があるうちは上限額までかけておいて、もし転職や結婚で経済状況が変わったら掛金を最低金額の5,000円まで下げることもできます。ただ、拠出を止める(掛金0円にする)と節税効果もなくなり、手数料だけかかってしまうので、要注意です。
坂本さん
年末調整、やり忘れたらどのくらい損する?
自分は今年、申請せずに終了してしまいましたが、年末調整をした場合としなかった場合どれくらいの差が出るものなんですか?
森田くん
控除できる項目や金額、所得によっても変わってきますが、もし森田さんが先ほどのiDeCoに加入されていて、年末調整をしなかった場合で計算してみましょう(所得税率・住民税率とも10%で計算)。
坂本さん
所得税:iDeCoの年間支払額276,000円×所得税10%=27,600円還付
住民税:iDeCoの年間支払額276,000円×住民税10%=27,600円還付
→年末調整をすれば所得税、住民税合わせて1年で55,200円分税金を支払わなくてよくなる。
仮に10年間年末調整をないがしろにして申請しなかったら、合計55万円近く多く税金を払うことになります。
坂本さん
そ、それは大損!
ちなみに、控除できるのにうっかり忘れがちなものってありますか?
森田くん
住宅ローン控除でしょうか。1年目は確定申告が必要ですが、2年目以降は会社員なら年末調整でできます。1年目に確定申告をすると残りの期間の年末調整用の書類が送られてきます。金額も大きいので、忘れないでもらいたいですね。
坂本さん
申告漏れした場合は確定申告を
もし年末調整で申告漏れがあったら、どうすればいいんですか?
森田くん
少々手間はかかりますが、確定申告をするという方法があります。例えば3種類の生命保険に入っていて、2種類分は年末調整したけど、1つだけ忘れてしまった場合。残りの1種類分だけ確定申告で保険料控除の申請をすればいいんです。その際、勤務先から年末に受け取る源泉徴収票を添付しましょう。申請した2種類分の生命保険料控除が源泉徴収票に反映されているはずです。
坂本さん
確定申告はさすがに面倒なので、来年は年末調整をしっかりやらなきゃ。
森田くん
下記のようなスケジュールが一般的なので、忘れずに行ってください。
● 毎年10~11月に職場から年末調整の用紙が配布される
● 11月中旬~末頃に年末調整の提出が締め切られる
● 還付金は12月もしくは翌年1月の給料とともに振り込まれる
また年末調整を行う際は、生命保険料や地震保険料、iDeCoも証明書の提出が求められます。証明書は保険会社や金融機関から郵送やオンラインで届くので、すぐ出せるようにまとめておきましょう。
坂本さん
森田くん
基本的には給与所得者で、法人や株式会社などから給与をもらっている人が対象ですので、パートやアルバイトの方も含まれます。
坂本さん
なるほど、さっそくバイトしている友達にも教えてあげようっと。ありがとうございました!
森田くん
【教えてくれた人】坂本綾子さん
フリーランスの雑誌記者として女性誌、マネー誌にてお金の記事を執筆したのち、ファイナンシャルプランナーに。日本FP協会会員、くらしとお金のFP相談室相談員、日本学生支援機構認定スカラシップ・アドバイザー。