わたしに合う自宅は、持ち家なのか、賃貸なのか。生涯コストが安いのはどっち? 子育て期間や老後に住みやすいのは? それぞれのメリット・デメリットを新潟在住のファイナンシャルプランナー、本間洋一さんに聞いてみました。
【話を聞く人】藤田さん
新潟市在住の30歳、会社員。現在は一人暮らしだが、交際中の彼女と近々籍を入れる予定。いずれはマイホームを持つのかな?と漠然と思っている。
持ち家のメリットは「自由に決められること」
持ち家と賃貸、どちらが得なんでしょうか。
ちなみに自分は新潟で生まれ育ったせいか、結婚したら家を建てるのは当たり前だと昔から信じ込んでいました。
藤田さん
新潟市に住んでいる方の割合は持ち家と賃貸物件で、およそ8:2くらいでしょうか。圧倒的に持ち家派が多いので「当たり前」と感じるのは不思議ではありません。
FP本間さん
金銭面から考えると、どっちに住むのがお得でしょうか?
藤田さん
藤田さんのご質問、昔から本当によく聞かれるのですが、実は生涯コスト的には両者にあまり差がないんです。ですから、ご自身が「どんな暮らしをしたいか」「何を優先したいか」を考えて決めるべきだとアドバイスしています。
FP本間さん
持ち家、賃貸にかかる費用(50年間居住した場合で計算)
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持ち家 |
賃貸 |
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返済額・家賃 |
毎月返済額84,685円(35年間) |
家賃70,000円 |
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返済・家賃の総額 (50年間居住した場合※) |
購入代3,000万円 ローン支払い総額 3,556万円 (借入35年・金利1.0%) |
年間84万円、50年間で4,200万円 |
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予想される経費・維持費 |
固定資産税 年間10万円、50年間で500万円
火災保険料 年間3万円、50年間で150万円
エアコン2台(各10万円)4回購入で80万円
給湯器20万円×4回交換で80万円
リフォーム代 300万円 |
管理費・共益費 年間36,000円 50年間で180万円
更新料(2年ごと)70,000円、50年間で175万円
火災保険料 年間18,000円、50年間で90万円 |
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支払総額 (50年間居住した場合) |
4,666万円 |
4,645万円 |
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※2021年の男性の平均寿命81.47歳から、30歳から開始し、50年間で試算。
※金利は借入期間中変わらないものとします。
藤田さん
もちろん、これらはあくまで私の経験から導き出した試算に過ぎません。そこはご理解ください。
ただ、一つ大事にしてほしいことは「自分のめざすライフスタイルに合っているか」ということ。その中でメリット・デメリットを把握して、考えてみてください。
まず持ち家のメリットは、注文住宅を建てる場合に限って言うなら、部屋の間取りを自由に決められること。広いリビングが欲しいとか リモートワーク用の書斎が欲しいとか、子ども部屋が欲しいとか。すべて自分の意思で決められますし、後から増改築も可能です。
FP本間さん
賃貸物件だとさすがにそれはムリだもんなぁ。ただ、自宅を購入して住宅ローンを何十年も払い続けることができるか、いまいち自信が……。
藤田さん
そうですよね。今の住宅ローンは借り入れ期間が40年の商品もあります。40年と聞くと長いなぁと不安になるかもしれませんが、住宅ローンには「控除制度」があるのをご存じですか? 期間は決まっていますが、所得税が還付されるので、住宅ローンを利用して住宅を購入することで節税にもなるんですよ。
それに住宅ローンを組んだ場合、多くの方が団体信用生命保険に加入します。万が一ローンの契約者の方がお亡くなりになった時などは、当該保険の死亡保険金で住宅ローンが完済できるので、残されたご家族はそれ以降の住居費の心配をしなくてよくなるところもメリットでしょうか。
FP本間さん
▼詳しくはこちらの記事をご覧ください。
住宅ローン控除、どう適用される? 家を賢く買うために知っておくべきこと
無事にローンを完済したら、住居費の負担がなくなり、年金頼りの老後も安心して住めるのは大きな利点ですね。
藤田さん
持ち家のネックはメンテナンスのコスト
ところで、持ち家のデメリットってあるんですかね? これまで持ち家が普通だったので思いつかず。
あっ、税金がかかるとかでしょうか?
藤田さん
持ち家の方は固定資産税や都市計画税がかかりますね。地域によって差が出ますが、新潟市なら年間5~15万円が相場でしょうか。ただ、新築の固定資産税には軽減措置があって、施工後5年間は通常の2分の1ほどの金額で済みます。
FP本間さん
税金はローンが払い終わっても、家を持っている間は続くものですよね。
税金の他に賃貸であれば必要のない費用とか、持ち家で困ることってありますか?
藤田さん
持ち家はメンテナンス費用がかかります。目安として築15年ほどで外装や給湯器、エアコンなどの修繕が必要となるので、住宅購入を希望される方には年間10~20万円ほどメンテナンス費として準備しておくことをおすすめしています。
また、「簡単には引っ越せない」のが持ち家のネックですね。
特に全国をまわるような転勤族の方はよく検討してから購入することをおすすめします。
FP本間さん
賃貸は「身軽さ」が最大の魅力
藤田さん
賃貸は、何よりもまず引っ越しができる身軽さが魅力でしょう。新潟では少数派ですが、駅の近くや海の近くなど、引っ越すことで生活環境を変えて楽しんでいる方もいますよ。
でも、新潟県内ですと結婚当初は夫婦二人で賃貸アパートやマンションに住んでいても、子どもの誕生や子どもの進学を機に一軒家を建てようという方が多いですかね。
FP本間さん
引っ越しがしやすいとなると、転職とかで収入が減ったら、安い物件に引っ越せば良いのか。住宅ローンを利用していると、簡単にはいかないだろうから、そう思えば気が楽かなぁ。
藤田さん
年金生活になっても家賃を払い続けられるかどうか
賃貸のデメリットは、やっぱりどれだけ家賃を払っても自分のものにはならないことですかね?
藤田さん
そうですね。定年退職後も住居費を払い続けなければなりません。新潟市の賃貸料の相場は、立地や部屋の広さにもよりますが、二人暮らし向けマンションだと6~10万円、一人暮らし向けだと4~5万円ほど。働いている時は払えても、年金収入だけだと生活を圧迫してくるケースも出てきますね。
FP本間さん
あっ、マンションといえば、マンションは災害にも強いと聞いたことあるんですけど、本当ですか?
藤田さん
築年数が比較的浅いマンションは耐震性が高いので、地震災害には強いと言えます。ただし、停電するとエレベーターが使えなかったり、水が止まったりするリスクもあります。
FP本間さん
老後も住み続けるなら、どっちがお得?
いろいろ考えたら、やっぱり自分は持ち家かなぁって気がしてきました。家を買って、ずっとそこで暮らしたいなぁって。
藤田さん
なるほど。最近では、老後は自分で建てた一軒家を売って、施設に入居し移り住む方も増えてきました。持ち家の相続手続きは、想像以上に手間がかかるのが理由です。将来、子どもに迷惑をかけたくなければ、簡単に解約できる賃貸物件に途中で移り住むという選択肢もあります。なので、今「持ち家」を選択したからといって、必ず終のすみかというわけではないですし、その時に「最善」を考えればいいと思いますよ。
持ち家と賃貸を改めて比較すると下記の表のようになりますね。
FP本間さん
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持ち家 |
賃貸(アパート、マンション) |
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金銭コスト |
△ 固定資産税やメンテナンス費がかかる |
△ 共益費・管理費がかかる 修繕費がかからない |
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子育てのしやすさ |
◎ 間取り自由で魅力的、騒音問題の心配も少ない |
✕ 騒音で近隣トラブルの可能性も |
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引っ越しのしやすさ |
✕ 家の売却に手間がかかる |
◎ 引っ越しがしやすい |
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相続のしやすさ |
✕ 相続に手間がかかる |
◎ 契約解除のみで簡単 |
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防災(雪害・地震など) |
△ 耐震性やや低。雪かき必須 |
〇 耐震性高。雪かきの手間減 |
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制度活用のお得度 |
◎ 住宅控除ローンや補助金あり |
△ 会社によって住宅補助あり |
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僕は「子育てのしやすさ」を重視したいから持ち家かな。子どもが生まれたら、のびのびとした環境で育てたいし。
反対に、賃貸に向くのはどういう人ですか?
藤田さん
転勤族の方、将来実家に戻る予定がある方でしょうか。購入物件が必ずしも望む形で売却できるとは限りませんから。あとは、健康状態など何らかのご事情により団信に加入できない方や、住宅ローン返済に不安がある方も賃貸向きです。
持ち家か賃貸物件か、どっちがよいかという正解はないと思います。ご家族で「どんな暮らしをしたいか」「何を優先したいか」をよく考えて決めていただきたいと思います。
FP本間さん
メリット、デメリットがわかって視界がよりクリアになった気がします。
理想の家を選ぶために、家族で話し合ってみます。
藤田さん
【教えてくれた人】本間洋一さん
ファイナンシャルプランナー
会計事務所、外資系金融機関などを経て、2004年に独立系ファイナンシャルプランナーとしてFPオフィス「ファイナンシャルクリニックサービス」設立。アドバイス方針の一つは、「お客様の不安、疑問、お考えにとにかく耳を傾ける」こと。