増え続ける空き家が社会問題化しています。活用するにも、そのまま維持するにも、解体して売却するにもお金のかかる空き家。相続人の意見が合わずに揉める恐れもあります。誰の身にも起こりうる実家の空き家問題と基本的な対策について、不動産業を営みながら空き家対策に取り組む荒木一朗さんが解説します。
少子高齢化で空き家は増え続けている
日本では以前から世帯数よりも家が多い「家余り」の状態。加えて、核家族化・少子高齢化が進み、更に空き家が増加しています。これは、下のグラフを見てもわかるように単身者や夫婦のみの世帯が増えている一方、両親と子ども夫婦と孫が一つ屋根の下に住む「三世代同居(下図の黄色いグラフ部分)」が年を追うごとに減少傾向にあるからです。通勤の利便性や生活時間帯の違いなどの理由から、親とは同居せず子ども世帯が新たにマイホームを持つことも珍しくなくなりました。 これにより、新潟県も全国的にも空き家の数自体は年々増え続けています。
空き家を放っておくとこれだけのリスクが……
空き家のまま何も管理せずに放置しておくと、さまざまなリスクが発生します。
■建物自体のリスク
地震や台風などによる倒壊リスクがあるだけでなく、壊れた屋根や外壁の一部が飛んで隣家の外壁や窓ガラスを傷つける、家の前を歩いていた通行人に当たってけがをさせてしまうなどのリスクがあります。
■治安の悪化
ポストから溢れたチラシや、伸び放題の雑草を見れば、地域住民でなくとも空き家とわかり、空き巣から狙われやすくなります。「貴重品はないから大丈夫」といっても安心はできません。不法侵入されて中を荒らされたり、無断で水道や電気を使われたりすることもあります。ゴミの不法投棄や落書きは、景観や悪臭の原因となり、また放火などのリスクも発生します。
■獣害
空き家にハクビシンやねずみ、ハエなどの害虫・害獣が住み付くと、隣家にも影響が及びます。
■特定空き家
空き家には固定資産税、所在地によっては都市計画税もかかりますが、200平方メートルまでの敷地部分に対しては固定資産税が6分の1に軽減されます。ただし、2015年から施行された空き家対策特別措置法により、保安・衛生・景観面などの面で適切な管理がなされていないと見なされた物件は「特定空き家」に指定され、行政は所有者に対して指導や勧告、命令等を行うことができ、それでも状況が改善されない場合は固定資産税の軽減措置対象から除外することができます。つまり特定空き家は増税につながりかねません。
■維持費
水道や電気、ガスは契約したままの状態だと、使わなくても月額基本料がかかります。
空き家対策の選択肢は活用・売却・現状維持の3つ
相続したあとの実家はどう扱えばいいのでしょうか。大きくわけて、「活用する」「売却する」「空き家のまま管理する」という3つの選択肢があります。
1.活用する
空き家を活用する場合は次の方法があります。
■自分たちで使う
マイホームとして住む他に、空き家になった実家を趣味の空間として使う人もいます。空き家のままにするより、何らかの形で活用したほうが家の傷みは遅らせることができます。ただし、「その後」のことは必ず考えておくべき。売却しない限り、不動産は引き継がれます。築年数が経過した古家を相続するお子さんが困らないようにしたいものです。
■リフォームして貸し出す
リフォームした上で不動産会社などを通じて貸し出せば家賃収入が得られます。もしも大きめの一戸建てなら、地域のコミュニティスペースにしたり、デイサービスやグループホームなどを運営する福祉事業者に貸し出す方法もあります。また、自分で賃貸経営せず、プロの事業者に貸すという手も。
ちなみに新潟県は、県内各市町村が取り組む地区の空き家再生のための調査研究及び空き家再生への取り組みに対して補助を行っています。具体的には、新潟県内の空き家を地域交流や福祉など公益性の高い拠点にした場合、空き家の所有者に対して補助金を交付しています。
参考:空き家再生まちづくり支援事業 – 新潟県ホームページ
■住宅以外の用途に用途変更する
空き家を住宅以外の用途に用途変更し、店舗やゲストハウス等を運営するという方法もあります。ただし、用途変更する場合は建築基準法や消防法にも関連するので注意が必要です。
■更地にして活用する
古家を解体し、更地にして駐車場や事業用地として貸す活用方法もあります。しかし解体費用は100万円単位でかかってくることも珍しくなく、空きのリスクも伴います。また、建物を解体することで固定資産税が上がります。収入が見込めないのに税金の支払いに追われる事態になりかねません。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
自分たちで 使う |
●住居が確保できる ●自宅以外のスペースが確保でき、趣味の部屋などに利用可能 ●家の傷みが遅らせられる |
●将来的に自分の子どもに負担がかかる ●定期的なリフォームやメンテナンスが必要 |
リフォーム して賃貸 |
●家賃収入が得られる ●いざとなったら売却という選択肢も残る |
●経営ノウハウが必要になるケースがある ●先行投資としてのリフォーム代がかかる ●空室リスクや管理負担が発生 |
住宅以外に 用途変更 |
●事業収入が得られる | ●経営ノウハウが必要になる ●用途変更にともなう法的手続きが必要 |
更地にして 活用 |
●駐車場などにした場合、収入が得られる ●いざとなったら売却という選択肢も残る |
●経営ノウハウが必要になるケースがある ●建物を解体することで、固定資産税が上がる ●空リスクや管理負担が発生 |
2.売却する
空き家活用の中で、もっとも多いのが「売却」です。空き家をリフォームして賃貸物件として貸し出す場合はまとまった自己資金が必要になるのに対して、そのまま売却する場合はお金の持ち出しもぐっと抑えることができます(ただし、売却確定後にかかる仲介手数料や印紙代などの諸経費などは必要)。以下、主な売却手段を挙げてみましょう。
■不動産会社に依頼する
不動産会社に売却を依頼する時は、必ず2~3社に査定依頼しましょう。現状のまま売却するのか、あるいは更地にして売却するかも含めて査定依頼するのが理想です。売却の場合は「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」という措置があり、相続開始の日から3年を経過する日の年の12月31日までに譲渡すると、譲渡所得から3,000万円を特別控除されます(平成28年4月1日~令和5年12月31日までの売却の場合)。ただし、更地にしてから売却する場合は、売却までに時間がかかると6分の1に軽減されていた課税額が上がるので注意が必要です。他にもさまざな適用要件があるので国土交通省のサイトで確認しておきましょう。また、古家を解体する場合は、解体工事のローンが利用できる金融機関もあります。
参考:空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除) – 国土交通省
■空き家バンクに登録する
「空き家バンク」とは、各自治体が売却あるいは賃貸希望の空き家情報を集めてインターネットなどで発信している、ウェブ上の空き家情報サイトです。この場合、自治体によっては「リフォーム助成」などの助成金・補助金が受け取れるメリットもあり、ほとんどのケースで自治体指定の不動産仲介会社が交渉事や契約の手続きを取り仕切ってくれます。
3.とりあえず空き家のまま管理する
家庭の事情などで、空き家のままにしておく場合は、しっかり維持管理することで家の劣化を遅らせることができます。
■自分や親族が自力で管理する
月1回以上の管理が理想です。空き家の掃除、点検(屋内、屋外)、通風(窓を開けて風を通す)、通水(トイレの水を流す、キッチン、洗面、屋外栓など全ての蛇口の水を流す)を行います。風を通すことで室内の湿気がこもりにくくなりカビの発生を防ぎ、水を流せば排水トラップの水が保たれ悪臭防止になります。
■空き家管理代行サービスの利用
民間やNPO法人の「空き家管理代行サービス」を利用する方法もあります。実家が遠方にあり、「最低限の管理だけしてくれればいい」という方にとっては、帰省にかかる時間や費用を節約できるメリットがあります。