「リタイア後は、旅行に趣味に好きなことを楽しみたい!」と思ってはいるものの、公的年金だけで豊かな老後が送れるの?そもそも生活費は賄えるの?と不安な方も多いかもしれません。そこで公的年金に加えて検討したいのが、自分で老後資金を備える私的年金の1つとされる「個人年金保険」です。この記事では、私的年金が必要とされる理由を振り返りながら、個人年金保険への加入のメリットや活用のポイントをファイナンシャルプランナーの豊田さんに解説いただきます。
リタイア後の収入、支出はどう変わる?
――定年などを機に仕事を辞めた後、みなさんはどのように生活しているのでしょうか? 収入源や収入の額、支出の金額等が気になります!
まず、老後の生活費の収入源に関しては、下図の老後資金(世帯主が60歳以上・2人以上世帯と単身世帯)についての調査をご覧ください。複数回答にはなりますが、2人以上世帯・単身世帯ともに8割以上の方が「公的年金」を収入源としており、「企業年金、個人年金、保険金」や「金融資産の取り崩し」、「就業による収入」などが続く形となっています。
▼2人以上世帯・老後の生活費の収入源(%)
▼単身世帯・老後の生活費の収入源(%)
出典:金融広報中央委員会「令和5年(2023)家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査][単身世帯調査]」
※複数回答のため、割合の合計は100%になりません。
――「公的年金」とはどのようなものでしょうか?
公的年金とは、日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民年金(基礎年金)と、会社などに勤務する人が加入する厚生年金で構成された2階建ての国の社会保障制度のことです。
なお公的年金には「老齢年金」「障害年金」「介護年金」の3種類の給付制度があり、下記の要件を満たせば「老後」以外にも年金を受給することができます。
保険の種類 | 受給者 | 受給の要件 |
---|---|---|
老齢年金 | 被保険者本人 | 65歳に達した場合 |
障害年金 | 被保険者本人 | 病気やケガが原因で、障害認定を受けた場合 |
遺族年金 | 被保険者の遺族 | 生計維持関係にある被保険者が死亡した場合 |
――なるほど。でもみなさん、公的年金をメインの収入源としつつも、定年後も働いて収入を得たり、企業年金、金融資産を取り崩したりで生活されているんですね。
そうですね。というのも、昨今は公的年金だけで余裕のある生活をするのはなかなか厳しい状況でして。特に自営業の方は厚生年金の対象にならないため、老後受け取れる老齢基礎年金は40年間(国民年金を満額で受給できる年数)払い続けたとしても、月々7万円程度です。
会社員、自営業などすべての方の平均値にはなりますが、65歳以上の方々の収入と支出がどの程度となっているのか、内訳が分かるデータを見てみましょう。
夫婦で無職世帯の場合、年金などの社会保障給付・その他の収入は24万4,580円、それに対して税金・社会保険料などを含む支出が28万2,497円。月々3万7,916円の赤字になっています。
単身無職世帯の場合は、年金などの社会保障給付・その他の収入は12万6,905円、それに対して税金・社会保険料などを含む支出が15万7,673円。月々3万768円の赤字になっています。
いずれも3、4万円程度の赤字となっていますが、この支出には住宅ローンなど負債の返済分は含まれていません。家のリフォーム、車の買い替えといった大きなライフイベントの支出も別途必要になります。高齢になるほど、医療費や介護費の負担も増える傾向にあります。
――となると、月々7万円では全然足りないじゃないですか! それどころか、月々の赤字分に加え、まとまったお金も準備しておかなければならないんですね……。
もちろん会社員の方は国民年金に加え厚生年金がありますが、先述の「老後の生活費の収入源」のデータをご覧いただいた通り、ある程度余裕のある生活を送りたいのであれば、公的年金だけでなく+αとなる資金源を用意しておく必要があるといえるのではないでしょうか。
老後も現役時代にもメリットがある、個人年金保険
――公的年金+αの備えが必要とのことですが、例えばどんな方法があるのでしょうか?
公的年金のほかに、公的年金の上乗せ給付を保障する制度として「私的年金」があります。年金制度の3階部分に該当し、1、2階の公的年金とは違い必要に応じて企業が独自に実施したり、個人が任意で加入したりすることで老後に備える仕組みとなっています。
私的年金には、企業が任意で設立し社員が加入する企業年金(確定給付企業年金、確定拠出年金(企業型))や厚生年金基金があります。また個人単位で加入できるものとして、iDeCo(個人型確定拠出年金)や自営業者などの方向けの国民年金基金などがあります。広義では、個人年金保険や小規模企業共済※なども私的年金に含まれてくるでしょう。他にも、NISAなどを老後資金目的で使う人もいます。
※小規模企業共済
小規模企業(事業)の経営者や役員が、廃業時や退職時の生活資金などのために積み立てておくことのできる制度。
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自分はiDeCoに向いてる? 向いてない? ネットの「やめとけ」説に振り回されないためには
――選択肢はけっこうあるんですね。
はい。色々あって迷われてしまうかもしれませんが、
・老後資金を貯めることが目的
・株式などでガッツリ投資をするのはどうしても抵抗がある
・投資は怖いけど預貯金だけでは金利が低いから、それ以外の選択肢がほしい
という方の候補となるのが、個人年金保険です。
個人年金保険は一括または分割で保険料を納め、契約時に定めた年齢に達すると、一定期間または一生涯、年金が支払われる仕組みの保険です。そのため、「老後用の年金資金として受け取る」という明確な目的のもと運用しやすいのが大きな特徴です。また、振込期間中に万が一被保険者が死亡してしまった場合は死亡給付金として支払われます。
――個人年金保険にも色々と選択肢があるようですが、どんな種類があるのでしょうか?
おっしゃる通り、個人年金保険は運用方法や支払い方法など、加入時にはいくつかの選択肢から選ぶ必要があります。以下に個人年金保険に加入する際に確認すべき4つのポイントをまとめましたのでご覧ください。
選ぶポイント1:支払い方法
・一時払い……一括で保険料全額を払う方法。保険会社が割引を提供している場合が多く、平準払いよりもトータルで支払う保険料が安くなることも
・平準払い……年払い、半年払い、月払いなど、定期的に分割して払う方法。家計への負担が少なく、予算管理がしやすい
選ぶポイント2:運用方法
・定額型……契約時に定めた予定利率で運用するため、将来受け取る年金額が決まっている
・変額型……株式や債券などで資産運用をし、運用実績によって将来受け取る年金額が変動する
選ぶポイント3:通貨
・円建て……払い込んだ保険料が日本円で運用される
・外貨建て……払い込んだ保険料が米ドルや豪ドル、ユーロなどの外貨で運用される
選ぶポイント4:受け取り方法
・確定年金……被保険者の生死に関係なく、契約時に定めた期間に年金が受け取れる。被保険者が死亡してしまった場合も、遺族が年金を受け取れる
・有期年金……被保険者が生きている場合に限り、契約時に定めた期間、年金を受け取れる。受給期間中に被保険者が亡くなってしまった場合は、以後年金を受け取れない(保証期間付の商品を除く)
・終身年金……契約時に定めた受取開始年齢から被保険者が亡くなるまで、年金を受け取れる。受給期間中に被保険者が亡くなってしまった場合は、以後年金を受け取れない(保証期間付の商品を除く)
――決めなくちゃいけないことがたくさんあるんですね……! どうやって選んだらいいのでしょうか。
定額型は受け取る金額が決まっていますので、将来の見通しが立てやすいですね。一方変額型はリスクがある反面、受取額を増やせる可能性もあります。
外貨型も為替リスクはありますが、受取額を増やせる可能性もあります。円建ての商品ばかり持っている人が、リスク分散の意味で持つ意義もあると思います。ただし、為替コストについては理解しておく必要があります。
――リスクを取る覚悟があれば、増える可能性もある、ということですね。
リスクといっても、平準払いで積み立てるタイプの変額型や外貨建ての個人年金保険で、20~30年後に受け取るのであれば、ドルコスト平均法※が効きやすく長期間の間にならされていきます。不安なら、少額の保険料で始めてもいいと思います。
※ドルコスト平均法
価格が変動する金融商品を常に一定の金額で、かつ時間を分散し、定期的に買い続ける手法。この方法で金融商品を購入し続けると、価格が低いときは購入量が多くなり、価格が高いときは購入量が少なくなる。そのため、一括で金融商品を購入するのに比べ、損失リスクを和らげることができる。
――私的年金の準備は、いつ頃から始めるのがベストですか?
余裕があれば、早ければ早いほどいいですね。お子さんがいる場合、一番下のお子さんが中学校を卒業し、教育資金に目途が立ったタイミングで始めるのが理想です。遅くとも40代後半までに始められれば、定年退職のタイミングにも間に合うと思います。
なお、個人年金保険は個人年金保険料控除の対象にもなるため、現役時代にも税制優遇が受けられる(諸条件あり)ところもポイントではないでしょうか。
※ただし変額年金保険、一時払いの個人年金は一般生命保険料控除の対象になります
【個人年金保険料控除の対象となる条件】
・「個人年金保険料税制適格特約」がついている
・年金受取人が契約者(保険料負担者)またはその配偶者のいずれかであること
・年金受取人は被保険者と同一人であること
・保険料払込期間が10年以上であること
・年金の種類が確定年金や有期年金の場合、年金受取開始が60歳以降で、かつ年金受取期間が10年以上であること
参考:公益財団法人 生命保険文化センター「生命保険と税金」
個人年金保険を使いこなすために、押さえておきたいポイント
――個人年金保険を運用する際に注意点はありますか?
途中解約をすると、解約控除により、解約払戻金がそれまでに払い込んだ金額よりも少なくなるケースもあります。また、払込総額よりも解約返戻金の方が50万円以上多い場合、所得税(一時所得)の対象となります。中途解約の際には、必ず自分が今まで払い込んだ保険料に対して、プラスになっているかを確認し、タイミングを見極めるようにしましょう。
変額個人年金保険、外貨建て個人年金保険については、運用状況や為替相場が悪いと慌てて解約したくなる方もいるようです。しかしそこはぐっと我慢。先述の通り、長期的な視点で見ていくことが大切です。
また年金を受け取る際には、契約者=年金受取人であれば所得税で問題ないですが、契約者≠年金受取人だと贈与税と所得税がかかってしまいます。その点を考慮して、年金受取人を決めるようにしましょう。
――最後に、個人年金保険を上手に活用するポイントはありますか?
個人年金保険だけでなく私的年金全般に言えることですが、確定拠出年金など一定期間の有期年金としている場合は、その後の収入源も考えて老後資金の計画を立てておくようにしましょう。受給終了後も、もちろん生活は続いていきますので、収入源が手薄になってしまわないように、例えば確定拠出年金(企業型・個人型)は65~75歳までの受給、75〜85歳は個人年金保険とするなど、受給時期をずらして複数の収入源を用意しておくと安心です。
――なるほど、そうすればいくつになっても安心ですね。今からしっかり備えて行きたいと思います!