20代の健康なときは、自分が病気になるなんて、考えることはないかもしれません。ところが近年、20代~30代の女性で子宮内膜症や子宮頸がんにかかる人が増えているのだとか。そういった女性特有の疾患について、注意すべき点、備えておくべき点について、成城松村クリニック院長の婦人科医・松村圭子さんに聞きました。
不妊の原因にも!? 子宮内膜症・子宮筋腫
最近、元気そうに見えた会社の先輩が婦人科系の病気で入院したので、驚きました。どうやら、20代でも増えている病気だそうで。20代でも気を付けないといけないのは、どんな病気ですか?
子宮内膜症は、若い方に年々増えていますね。それに、30代になると子宮筋腫や乳がんも増えてきます。
子宮内膜症? 怖い病気ですか?
これは、本来子宮の内側にあるはずの子宮内膜という組織が卵巣や子宮の周辺部にできてしまう病気。 自覚症状としては、生理痛がひどかったり、排便痛、性交痛があったりする方もいます。
え!? 生理中はお腹が痛いのが当たり前だと思っていました。痛みがひどいって、どのくらいのレベルですか?
生理のたびに寝込むといった、生活に支障をきたすほどの痛みがあるか。または、最近痛みが強くなった、痛み止めを服用する回数が増えた等、以前との変化がないかもチェックしたいポイントです。
なるほど……。もし気づかず放っておいたらどうなりますか?
痛みがどんどん強くなり、不妊症の原因にもなります。治療法は症状や年齢、妊娠を希望するかどうかで変わってきますが、薬による治療と手術による治療があります。
手術も、腹腔鏡手術(お腹に小さな穴を開けて行う)の場合は5~6日、開腹手術(お腹を切って行う)の場合は7~10日の入院が必要です。費用は40~80万円程度で、健康保険で3割自己負担と考えると、最高で24万円程度になります。
経済的な負担も大きいんですね。
高額療養費制度(※)があるので、全額負担するわけではありません。しかし、ある程度は備えておけると安心です。
※高額療養費制度…医療費の家計負担が重くならないよう、医療費が1カ月で上限額を超えた場合、その超えた額を支給する制度。上限額は年齢や所得によって定められている。
あと、若い方で増えているのは、子宮系の病気で子宮筋腫という病気ですね。これは、良性のコブが子宮にできる病気で、生理痛や生理時の出血量が多くなるなどの自覚症状が見られます。
生理の痛みはわかっても、量の多さって……。自分で多いのか少ないのかがわからないです。
生理の量が多い状態が毎月続くと、貧血になります。健康診断で貧血と指摘されたり、走ったり、階段を上がったりすると息が上がるといった場合は要注意です。
ただ、筋腫ができる位置によっては無症状の場合もあり、無自覚のまま直径10㎝程に成長していたなんてこともあります。
10㎝……!
子宮筋腫が小さいうちは痛みや貧血を緩和する治療が中心になりますが、大きくなったり、出血が多くなったりしたら、手術が必要になります。
腹腔鏡手術の場合は3日~1週間弱、開腹手術の場合は10日前後の入院が必要となり、費用は子宮内膜症と同じく40~80万円程度。健康保険で3割自己負担と考えると、最高で24万円程度になります。
子宮筋腫も手術が必要になるんですね。
さらに、子宮内膜症も子宮筋腫も、手術で子宮を全摘出するなら完治できますが、そうでない場合は再発する頻度が高いです。生理が来る限り、再発のリスクは避けられないのです。
生理が来る限り?
はい。子宮内膜症も子宮筋腫も生理が繰り返されるたびに進行するものです。
毎月生理が来て、排卵を起こすことは妊娠するためには不可欠なことなのですが、それ自体は体に大きな負担となります。昔の女性は若いうちから4~5人子どもを産むことで、生理でかかる負担を軽減していたんですよ。
近年これだけ患者さんが増えているのは、晩産化や産まない人が増えている現代女性特有の現象とも言えるでしょう。
そうなんですね……。
ただ、そういったリスクが高いことを知っておけば、早期発見、早期治療につながります。まずは知ることが大事なんです!
わかりました! 生理の時の痛みや出血量をチェックし、気になったら婦人科を受診ですね。
子宮頸がんは20代から増加! 女性特有のがん
子宮の病気でほかに注意すべきものはありますか?
最近とくに20代で増えているのが子宮頸がん。これは子宮の入口部分にできるがんです。
20代でがんになるんですか!?
はい。以前は40~50歳代の病気と言われていましたが、年々若年化しています。そのため、親御さんより先に亡くなるとか、小さいお子さんを遺して亡くなるようなケースも増えているんですよ。
怖いのは、初期症状がほとんどないこと。生理以外の出血や異常なおりもの、性行為の際の出血、下腹部の痛みといった自覚症状が出てくるころにはすでに進行しているケースがほとんどという点。
こ、怖いです……。
そのため、子宮頸がんは何よりも早期発見が大事なんです。年に1度、婦人科検診を受けましょう。
初期で発見できれば子宮の入口付近を部分的に切除する手術で済み、命も子宮も残すことができます。しかし進行すると、妊娠ができなくなったり、手術後に排尿障害などの後遺症が残ったり、最悪命を失うケースもあります。
手術には、入院も必要ですよね?
はい。入院も初期で発見できれば3日間程度の入院で治療費も10万円前後ですが、進行すると10日~2週間程度入院し、50万円以上かかるケースも出てきます。もちろんこちらも、高額療養費制度が使えます。
若いからと言って油断してはいけないんですね。
検診は本当に大事ですよ。アニバーサリー検診と言って、お誕生日月に必ず検診をするという方もいます。
また子宮頸がんは、性交渉によって感染するHPVというウイルスが主な原因とされていますので、性交渉を経験する前に、ウイルス感染を予防するHPVワクチンを接種することもおすすめしています。
ワクチンと定期検診ですね。でも私、がんと言えば、乳がんのほうが気になっていました。
乳がんは乳房にはりめぐらされている乳腺に悪性の腫瘍ができるもの。こちらも初期段階では痛みなどの症状はほとんどありません。ただ、皮膚に近いところにしこりができるので、セルフチェックできる唯一のがんとも言えるでしょう。
しこりがあるかどうかって、どうすればわかるんですか?
触って確かめられます。毎月生理が終わって胸の張りがなくなったときに触り、しこりや違和感はないか、チェックすることを習慣にしましょう。
乳がんもとても怖い病気のイメージがありますが、初期に発見できれば、9割以上は治ると言われているんですよ。
今から乳がん検診も受けたほうがいいですか?
身内の2親等以内(母親や姉妹)に乳がんになった人がいる場合、20代でも検診(超音波=エコー)を受けたほうがいいです。それ以外の場合、乳がんになりやすい年齢は40~60歳代ですので、40歳になってから2年に1度は検診(マンモグラフィ)を受けるようにしましょう。
万が一手術となったら、入院期間や費用はどのくらいかかりますか? 最近では乳がん手術をしても、乳房再建手術(インプラント)が受けられると聞いたことがあるのですが…。
入院は全摘出で7~10日、部分切除で3~7日程度。費用は全摘出で20~50万円、部分切除で30~40万円程度と言われています。保険で3割負担なら、最高で15万円程度でしょうか。
乳房再建手術の入院は4日、費用は100万円程度です。こちらも保険適用になりましたので、3割負担で30万円前後です。
うーん、考えただけで辛い。
しかも乳がんは再発が多く、10年再発がなくてようやく完治したと言えるような病気です。そのため治療は手術に加えて、放射線治療、ホルモン治療を併用するケースが大半で通院が5~10年と続き、その期間の治療費も負担になります。
20代から備えておくべきこととは?
ほかに20代の私たちが考えておかなければならないことはありますか?
これから妊娠・出産を迎える方も多いと思います。出産にかかる費用は、出産する病院にもよりますが、平均で45万円程度。こちらは出産一時金も出ますし、妊婦健診も自治体の助成金が出ますので、そちらでほとんどカバーできると思います。
ただ、人によっては妊娠中に切迫早産(早産の危険がある)の状態となり、1~3週間くらい入院することも。入院と言っても、安静に寝ているだけとか、24時間点滴が必要とか、症状によって異なりますが、費用は1日1~2万円程度と考えていいでしょう。
いろいろあるんですね。入院も手術もお金がかかるし。
入院や手術費用は高額療養費制度を利用すればさほど高額になることはないんです。でも入院期間中は仕事を休むことになりますし、入院後の通院が長くなると治療費もかさんできます。
そんなとき、20代で貯蓄も少ない方もいるでしょうし、ただでさえ病気になり、精神的にも辛いなかで、お金の心配をしなくてはならないのは本当にきついんじゃないかと思います。
では、どうすればいいのでしょうか。保険に加入するとか?
医療保険加入の際には原則審査があり、子宮筋腫ができたり、(子宮頸がんの前段階の)異形成が見つかったあとでは、加入できる医療保険も限られる可能性があります。そういった点でも、健康なうちに加入しておいたほうがいいと思いますよ。
健康って大事ですね。いやあ、それにしてもこれまではちょっと異変を感じても、ネットで調べて終わりにしていました。
自分は大丈夫だと安心したいですからね。自分に都合の良い情報を信じてしまう気持ちもわかります。ただ、ネットの情報のなかには、「病院に行かずにがんが奇跡的に治った」といった、医学的に見て問題のあるものも。気になる症状があったら、必ず病院で診察を受けるようにしてください。
あとは月1回の生理のチェック、生理後の乳がんチェック、年1回の検診ですね。今日から意識を変えたいと思います。ありがとうございました。
【登場人物】
【教えてくれた人】成城松村クリニック院長/日本産科婦人科学会専門医/松村圭子先生
月経トラブルから更年期障害まで、女性の一生をサポートすべく婦人科診療にあたる。TV、雑誌のほか、講演や執筆など幅広く活躍中。生理や排卵日を管理できるアプリ「ルナルナ」の顧問医も務める。
【話を聞く人】平田さん
20代会社員2年目。いつも元気で、健康に自信あり。まだ一度も健康診断を受けたことがない。