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iDeCoはどのように受け取る? 賢く受け取るためにこれだけは知っておこう

服部ゆい
イラスト
田畑理絵
UPDATE
2024/05/08/
サラリーマン男性と主婦の女性がそれぞれiDeCoの受け取りについて悩んでいる

長期にわたって運用してきたiDeCo。受け取り時には税金がかかり、受給方法によって税率が変わってくるのをご存知でしょうか?せっかく運用時には税制優遇を受けてきたんだし、できることなら受け取り時にも「損せずお得に受け取りたい」と誰もが考えることでしょう。
いったいいつから、どう受け取ればいいのか、自分に合ったiDeCoの受け取り方法について、ファイナンシャルプランナーの福田智司さんにお聞きしました。

【話を聞く人】

高橋さん:45歳の会社員。会社の退職金制度である企業型確定拠出年金(以下企業型DC)に30歳の時に加入し、最近iDeCoにも加入した。老後はこれまでのキャリアを活かして起業すべく、退職金かiDeCoの一部を独立資金に充てたいと考えている。

高橋さん顔イラスト

吉村さん:53歳のパート勤め。自身は退職金がないため、47歳の時iDeCoに加入。夫婦ともに65歳まで働く予定で、iDeCoの受給開始年齢については考え中。

吉村さん顔イラスト

iDeCoの受給は60歳で自動スタートするわけではない

iDeCoって、そもそも何歳から受け取れるんでしたっけ?

高橋さん顔イラスト高橋さん

原則60歳からです。ただ、実際に受け取る時期や受給方法はご自身で決めて手続きをすることになるため、60歳になったら自動的に受け取りが始まるわけではありません。受け取る時期は60歳から75歳までの間で選択することになります。また、60歳からiDeCoを受け取り始めるには通算加入者等期間が10年以上あることが条件です。よって受給開始が60歳以降になることもあります。

福田智司FP顔イラスト福田さん
通算加入者等期間に応じて受給開始可能年齢が決まる
通算加入者等期間 受給開始年齢
・10年以上加入 60歳以降75歳まで
・8年以上10年未満 61歳以降75歳まで
・6年以上8年未満 62歳以降75歳まで
・4年以上6年未満 63歳以降75歳まで
・2年以上4年未満 64歳以降75歳まで
・1カ月以上2年未満 65歳以降75歳まで

受け取り方法も選べるんでしたっけ?

高橋さん顔イラスト高橋さん

そうですね、選択肢は3つあります。
1.一時金として一括で受け取る
2.年金として受け取る
3.一時金と年金の併用

のいずれかを選択することになります。ちなみに、一括受け取りは退職所得控除、年金受け取りは公的年金等控除の税制優遇が受けられます。

福田智司FP顔イラスト福田さん

なるほど、みんなそこで悩むのか……。

高橋さん顔イラスト高橋さん

一応、手続きもご紹介しておきましょう。
1. お受け取りについての案内が届く
2. 受け取り方を選択する
3. 必要書類を準備する
4. 裁定請求書・退職所得の受給に関する申告書を記入し、提出する

福田智司FP顔イラスト福田さん

ベストな受給タイミングは老後のライフプランで決めるべし

「受給開始年齢が60歳から75歳まで」って結構幅があるので悩みます。iDeCoの受給時期を決めるポイントはありますか?

吉村さん顔イラスト吉村さん

ポイントは、老後のライフプランですね。たとえば60歳以降に子どもが大学に進学するとか、定年後に起業を考えているとか。そういう「まとまったお金が必要なタイミング」に合わせて受け取る時期を設定することがポイントです。

福田智司FP顔イラスト福田さん

子どもは独立したし、今後我が家にまとまったお金が必要になる予定は家のリフォームくらいだけど、時期はまだ決めていなくて。公的年金の受給が始まる65歳までは夫婦ともに働いて収入がある予定なので、60歳ですぐに資金が必要ってわけじゃないんですよね。

吉村さん顔イラスト吉村さん

特に必要でなければ、60歳ですぐに受け取る必要はありません。ただ、iDeCoの受給時期と退職金や公的年金の受給時期が重なると、税金がかかる可能性が高くなります。

福田智司FP顔イラスト福田さん

じゃあ、私の場合、iDeCoを60歳から64歳の間に受け取って、65歳から公的年金を受給すれば時期は重なりませんよね。

吉村さん顔イラスト吉村さん

僕は定年退職後に起業する予定です。退職時にはiDeCoを一括で受け取って、起業準備や当面の生活費に充てたいと思っています。同時期にiDeCoと企業型DCを一括で受け取るのは避けたほうがいいですか?

高橋さん顔イラスト高橋さん

受け取る金額が退職所得控除内に納まるのであれば、税金はかからないので、同時期に一括で受け取ってよいと思います。
重要なのは、その起業資金が老後のキャリアや生活の中でいつ必要になるかということです。すぐにとなれば、たとえ税金がかかったとしても同時に受け取る方が良いと思います。

福田智司FP顔イラスト福田さん

うーん。でも一気に受け取る必要はないし、できればお得に受け取れる方法を優先したいなあ。

高橋さん顔イラスト高橋さん

受け取る金額が退職所得控除を上回ったとしたら、iDeCoと企業型DCの受給時期はずらしたほうがいいでしょう。iDeCoを先に一括で受け取り、5年後に企業型DCを一括で受け取ると、より高い節税効果を得られますよ。

福田智司FP顔イラスト福田さん

順番を逆にして、企業型DCを先に受け取るのはだめなんですか?

高橋さん顔イラスト高橋さん

退職所得控除には「5年ルール」と「19年ルール」があります。
企業型DCを「退職所得控除」を使って先に受け取ると、次にiDeCoを一括で受け取るまでに19年空けなければ、再度「退職所得控除」を使うことができません。逆に、iDeCoを先にすれば、次に企業型DCを受け取るまでに5年空ければ再度「退職所得控除」を受けることができるんです。

福田智司FP顔イラスト福田さん

一時金か年金か。iDeCoの受け取り方法はどちらがお得?

僕の場合、iDeCoは一括で受け取るほうが有利なんですかね?

高橋さん顔イラスト高橋さん

はい。ただし、高橋さんのように退職金もある場合は、iDeCoと企業型DCを同時に受け取ることで控除額の上限を超える可能性があるので、受給時期をずらす必要はあります。

福田智司FP顔イラスト福田さん

私の場合も年金にするより一括で受け取ったほうがいいですか?

吉村さん顔イラスト吉村さん

そうですね。iDeCoの受け取りで税金の負担を1番軽くする方法は、退職所得控除額におさまる範囲で一時金として一括で受け取ることです。

福田智司FP顔イラスト福田さん

ちなみに、退職所得控除額っていくらになるんですか?

吉村さん顔イラスト吉村さん

退職所得控除額は、退職金は会社の勤続年数、iDeCoはiDeCoの加入年数によって変わります。

福田智司FP顔イラスト福田さん
会社の勤続年数(iDeCoの加入年数)=A 退職所得控除額
20年以下 40万円×A
20年超 800万円+70万円×(A-20年)

高橋さん、吉村さんがiDeCo・企業型DCを一括で受け取る場合の退職所得控除額は以下通りです。

福田智司FP顔イラスト福田さん
    会社の勤務年数
iDeCoの加入年数
退職所得控除額
高橋さん
高橋さん顔イラスト
iDeCo・企業型DCを同時に受け取る場合 30年※1 800万円+70万円×(30年※2-20年)=1,500万円
企業型DCのみ 30年 800万円+70万円×(30年※2-20年)=1,500万円
iDeCoのみ 15年※3 40万円×15年=600万円
吉村さん
吉村さん顔イラスト
iDeCo 13年※3 40万円×13年=520万円

※1 勤続年数の30年間の中にiDeCoの積立期間15年間が収まっていたとする
※2 60歳で定年しており、勤務先からは拠出していないため、65歳までの期間は勤務年数に含まれない
※3 高橋さん、吉村さんともに60歳までiDeCoに加入・拠出していたとする

47歳でiDeCoに加入した吉村さんの場合、表の通り60歳時のiDeCo受給額が520万円以下なら、税金はかかりません。

福田智司FP顔イラスト福田さん

僕の場合はどうなるんでしょう?

高橋さん顔イラスト高橋さん

同時に一時金で受け取る場合、勤続年数の30年間の中にiDeCoの積立期間15年間が収まっていれば退職所得控除額は年数が長い方で計算されるので、合計で1,500万円以下なら税金はかからないということになります。また、需給時期をずらして受け取る場合、60歳で受け取るiDeCoが600万円以下、65歳で受け取る企業型DCが1,500万円以下なら、税金はかかりません。例えば長期で運用してきた企業型DCの運用成績が思いのほか良く、受給額が2,000万円になっていた場合は税金がかかります。この場合、1,500万円の上限を超えた残額500万円×2分の1=250万円が課税対象になり、約40万円の所得税と住民税がかかってきます。計算方法については下記を参考になさってください。

福田智司FP顔イラスト福田さん

<退職金にかかる所得税・住民税>
・所得税:退職所得250万円×所得税率約10%-9万7500円=15万2,500円
・住民税:退職所得250万円×住民税率約10%=25万円
※復興所得税率は含めず計算。税率は課税対象となる所得金額によって変わります
合計:約40万2,500円

40万円かぁ。もったいないなぁ…控除上限額を超えると、もう税金を払うしかないんでしょうか。

高橋さん顔イラスト高橋さん

一時金と年金の併用が原則可能となっているので、上限額1,500万円を一括で受け取り、残額の500万円を年金として受け取ることもできます。退職所得控除の上限を超える部分を年金として受け取ると、節税効果が得られます。※金融機関によっては併用できない場合もございます。
iDeCoを年金として受け取る場合、年何回に分けて受け取るか金融機関で設定を確認しておくことが大切です。その際、所得の種類は雑所得となり、公的年金などと同じ控除が受けられます。

福田智司FP顔イラスト福田さん

暴落のリスクに備えてスイッチングするのも手

受給タイミングで運悪く相場が悪くなったら、受け取りを先延ばしにしたほうがいいでしょうか。たとえば、59歳までは投資信託の評価額が800万円だったのに、60歳になったら急に相場が悪くなり、700万円に下がってしまうとか。

吉村さん顔イラスト吉村さん

相場の影響で下がった評価額が回復するには数年かかる傾向があります。資金的に余裕があれば、受給開始時期をずらすのも方法でしょう。
こうしたリスクを防ぐためにも、受給開始の数年前から投資信託を売却して元本確保型の商品に資金を移し替える「スイッチング」をおすすめします。

福田智司FP顔イラスト福田さん

スイッチングってよく耳にするけど、どのタイミングで、どのくらい移し替えればいいですか?

高橋さん顔イラスト高橋さん

受給開始の2~3年前を目安に運用資金を確認して、目標額を達成できていれば全額移し替えていいと思います。「もう少し運用して資金を増やしたい」場合は、7~8割程度の売却でいいでしょう。

福田智司FP顔イラスト福田さん

iDeCoを一括で受け取って何かに使った後、余った資金はどうするのがいいんでしょうか。

吉村さん顔イラスト吉村さん

資金が余った場合、再投資するのはいかがでしょうか。受け取った後も資産運用を続けることをおすすめしています。今は60歳以降といっても皆さんまだまだお元気ですし、老後の人生は長いですから。受け取った資金をNISA等を使って再投資しておけば、資産寿命を延ばせます。
また、iDeCoで取り崩した資金の一部を保険に活用し、相続税対策をする方法もあります。受け取った資金の活用方法で悩んだら、銀行などの金融機関や専門家に相談してみてください。

福田智司FP顔イラスト福田さん

【教えてくれた人】
福田智司さん

ファイナンシャル・プランナー。ライフスタイルプラス代表。福井県を拠点に相談業務、セミナー講師などで活動中。地元のラジオ局では、マネー関連のコーナーに出演。法人向けに企業型確定拠出年金の導入サポートを推進中。

福田智司FP顔イラスト

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