税負担を軽減しながら老後の効率的な資産形成ができる「iDeCo(イデコ)」。掛金を拠出できるのは60歳までのため、加入を諦めていた50代の方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、2022年に制度が変更され、50歳以上の方もiDeCoのメリットを享受しやすくなりました。そこで今回はiDeCoの制度改正のポイントと50代で運用を始める際のコツなどについて、ファイナンシャルプランナーのゆりもとひろみさんに聞きました。
50代で加入しても「空白期間」ができにくくなる
iDeCo(確定拠出型年金)とは、老後の資産形成のために国が設けた私的年金制度です。「自分年金」ともいわれ、毎月決まった掛金を拠出して運用することで、60歳以降に掛金と運用実績の合計額を受け取ることができます。ちなみに掛金は月に5,000円から積み立てることができ、上限については職業やお勤め先が企業型確定拠出年金に加入しているかどうか、などによっても異なります。
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iDeCo(確定拠出型年金)って何? いまさら聞けないメリットを詳しく解説
そんなiDeCoですが、実はこれまで「50歳を超えてからの加入は遅い」といわれていました。その理由としては、給付を受けるには原則「通算加入期間が10年以上必要」なうえに、「掛金の拠出可能期限(加入年齢期限)は60歳まで」と決められていたからです。
通算加入期間が10年に満たない人は、60歳になっても給付は開始されず、翌年以降に先送りとなり、しかもその間、新たに掛金を拠出することはできません。これがいわゆる「iDeCoの空白期間」です。いままでの制度では50歳以上で「iDeCo」を始めると一般的にこの空白期間が生まれてしまっていました。
しかし日本の高齢化に伴い2022年に、
- 今後さらに高齢の労働者が増加する見込みがある
- 国民年金だけでは老後資金を賄いきれない(65歳から満額受給した場合の受給額:月65,075円/2021年度)
といった背景をもとにiDeCoの制度改正が実施されました。それにより、50歳以降にiDeCoに加入したとしても空白期間が生まれにくくなり、iDeCoのメリットを享受しやすくなったのです。
もっと利用しやすくなる! iDeCo3つの改正点をチェック
iDeCoの新制度は、段階的に施行されました。
受け取り方の選択肢が広がる
まず、2022年4月に受給開始時期が延長されました。これまで「60~70歳未満」の間に受給を開始する仕組みでしたが、5年延長されて「60~75歳未満」になりました。これは、国民年金と厚生年金の受給開始時期の選択年齢が、75歳までに延長されることに合わせた措置です。
受給方法としては、一時金として一括で受け取る方法、年金として分割で受け取る方法(分割受給の場合は振り込みの都度、給付手数料がかかります)、そして両者の併用の3つがあります。ライフプランに合わせて選択しましょう。
iDeCoの運用は、受給するまで非課税で行われます。受給開始時期が5年延長されたことで、非課税で運用できる期間も5年延び、お金を増やすチャンスが広がりました。
積み立てできる年齢が延長される
また、2022年5月以降には、掛金を積み立てできる年齢が現在の「60歳未満」から「65歳未満」へと引き上げられました。これにより、たとえば55歳の誕生日にiDeCoを始めた人でも、10年間、掛金を拠出できるようになりました。
60歳以上で加入できるのは、「国民年金の被保険者(加入者)」のみですが、60歳を過ぎても会社員や公務員として働いている方(第2号被保険者)は、厚生年金とともに国民年金の被保険者でもあるので、iDeCoに加入できます。
一方、個人事業主の方(第1号被保険者)や専業主婦(夫)の方(第3号被保険者)は、原則として60 歳で国民保険の被保険者ではなくなります。そうなると、60歳以降の加入はできません。
企業型DC加入者も原則iDeCoに加入できるように
2022年10月には3つ目の改正が施行され、企業型DC(企業型確定拠出年金)とiDeCoの同時加入が原則、認められるようになりました。それまでは、企業型DCの規約でiDeCoへの加入を認めている場合に限って同時加入できましたが、10月からは規約の有無に関わらず同時加入が可能になりました。
企業型DCとiDeCoを併用する場合、最大2万円まで掛金を上乗せすることができます。企業型DCの掛金が少なく十分な積み立てができていない方にとってはメリットが大きい変更と言えるでしょう。
会社で加入している企業年金制度によってもiDeCoで拠出できる掛金の上限が異なるので一度ご自身の加入状況を確認してみることをお勧めします。
加入可能期間に合わせた商品選びを
ここまで見てきたように、2022年の制度改正でiDeCo加入のハードルは大きく下がり、50歳を過ぎてから加入してもメリットを享受しやすくなりました。ただし、投資先商品は、より計画的に選ぶ必要があります。
たとえば、20年、30年と運用期間が残されている人であれば、たとえ一時的に資産が減少したとしても、時間をかけて取り戻すことができます。しかし50代からiDeCoを始めた場合運用できる期間が短いため、もし今後、第2のリーマンショックなどが起きて大きく資産が減ってしまったとしても、残りの年数で損失分を取り戻すのが難しくなってしまいます。
老後の資産形成が目的なのであれば、ハイリスク商品には手を出さないなど、加入可能な期間とリスクを考慮した商品選びをしましょう。
また、iDeCo以外の積立型の資産運用としては、NISAを活用した投資信託の積立購入がおすすめです。NISA枠での投資は、運用益が非課税になります。iDeCoとの大きな違いは、好きなときにお金を引き出せることです。
【登場人物】