国税庁によると、令和5年度における相続税の課税割合は9.9%。およそ1割と聞くと、「うちは富裕層ではないから関係ない」と考えがちですが、実際には自宅とちょっとした土地や農地、数百万の預貯金があるだけで課税されるケースも少なくありません。
「相続税っていつ、何に対してかかるの?」「大体いくらくらいの税額になるのか目安を知りたい」「生前から備える方法は?」相続税に関するさまざまな疑問をファイナンシャルプランナーの中垣香代子さんに聞いてみました。
【話を聞く人】山本さん
相続税は決して富裕層だけの話ではない!
相続税がかかるもの(プラスの財産)
・本来の財産:現金、預貯金、土地、建物、有価証券(株、投資信託、債券等)、自家用車、宝飾品など
・みなし相続財産:生命保険金、死亡退職金など
・相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産
・生前の贈与財産:生前3~7年以内※に贈与されていた財産など
※相続が発生した時期によって加算対象期間が異なる
相続財産から差し引けるもの(マイナスの財産)
・債務(借金):各種借入金、未払いの税金など
・葬式費用:告別式までの葬儀・納骨費用など
・非課税財産:墓地、仏壇、国や地方公共団体等へ寄付した財産、生命保険金・死亡退職金のうち一定額まで
相続税がかかる場合
「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内」に「亡くなった人(被相続人)の住所地を所轄する税務署」に相続税申告と納税を行う必要がある
相続税はどうやって決まる?
STEP1.「課税遺産総額」を算出する(下図参照)
1.相続や遺贈によって取得した財産のうち、本来の財産、みなし相続財産、相続時精算課税の適用を受けた贈与財産を合計して【プラスの財産】を算出
2.1から債務+葬式費用+非課税財産といった【マイナスの財産】を差し引いて遺産額を算出
3.遺産額に相続開始前3〜7年以内に暦年贈与で生前贈与を受けた財産【プラスの財産】を加算して、【正味の遺産額】を算出
※令和6年1月1日以降に行われる暦年贈与から、生前贈与加算に係る加算期間が3年から7年に延長
4.3の【正味の遺産額】から基礎控除額を差し引いて【課税遺産総額】を算出
※正味の遺産額が基礎控除額を下回る場合、相続税はかからない
【課税対象となる遺産総額の計算方法】
▼贈与について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください
生前贈与と相続、どっちが我が家に合っている?親の財産を引き継ぐために知っておくべきこと
STEP2.相続人全員の「相続税の総額」を算出する
1.先ほど求めた「課税遺産総額」を、実際の相続割合に関係なく法定相続分で按分(振り分け)します。
2.法定相続分で按分した相続税の金額を下記の相続税の税率表に当てはめ、各相続人の相続税額を算出します。
【相続税の税率表】
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ー |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
1億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
3.税率表を元に算出した各相続人の相続税額を合計して、相続税の総額を算出します。
STEP3.相続人それぞれの相続税額を計算する
先ほど求めた「相続税の総額」を、今度は各相続人の実際の相続割合で按分します。その後、相続人ごとに使える税額控除等を調整し、最終的な納付税額を算出します。
●配偶者の税額軽減
取得した正味の遺産額が「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかからない
●小規模宅地等の特例
被相続人の自宅や事業に使用していた土地(宅地等)の評価額を最大8割減に下げる特例。「小規模」特例のため適用される面積には上限があり、居住用の場合は330㎡までといった要件がある
早見表でおおよその税額をチェック
【相続人が配偶者と子どもの場合】
遺産総額 | 配偶者と 子供1人 |
配偶者と 子供2人 |
配偶者と 子供3人 |
---|---|---|---|
3,000万円以下 | 0 | 0 | 0 |
4,000万円 | 0 | 0 | 0 |
5,000万円 | 40 | 10 | 0 |
6,000万円 | 90 | 60 | 30 |
7,000万円 | 160 | 113 | 80 |
8,000万円 | 235 | 175 | 138 |
9,000万円 | 310 | 240 | 200 |
1億円 | 385 | 315 | 263 |
1.5億円 | 920 | 748 | 665 |
2億円 | 1,670 | 1,350 | 1,218 |
2.5億円 | 2,460 | 1,985 | 1,800 |
3億円 | 3,460 | 2,860 | 2,540 |
4億円 | 5,460 | 4,610 | 4,155 |
5億円 | 7,605 | 6,555 | 5,962 |
10億円 | 19,750 | 17,810 | 16,635 |
【配偶者なしで子どもが相続人の場合】
遺産総額 | 子供1人 | 子供2人 | 子供3人 |
---|---|---|---|
3,000万円以下 | 0 | 0 | 0 |
4,000万円 | 40 | 0 | 0 |
5,000万円 | 160 | 80 | 20 |
6,000万円 | 310 | 180 | 120 |
7,000万円 | 480 | 320 | 220 |
8,000万円 | 680 | 470 | 330 |
9,000万円 | 920 | 620 | 480 |
1億円 | 1,220 | 770 | 630 |
1.5億円 | 2,860 | 1,840 | 1,440 |
2億円 | 4,860 | 3,340 | 2,460 |
2.5億円 | 6,930 | 4,920 | 3,960 |
3億円 | 9,180 | 6,920 | 5,460 |
4億円 | 14,000 | 10,920 | 8,980 |
5億円 | 19,000 | 15,210 | 12,980 |
10億円 | 45,820 | 39,500 | 35,000 |
相続税がないケースはむしろ揉めやすい!? 相続税対策には生命保険の活用も

出典:最高裁判所事務総局作成「令和5年 司法統計年報 3家事編」第52表 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く)―遺産の内容別 遺産の価額別―全家庭裁判所 をもとに作成
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