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生前整理、あなたはどうしますか? 終活準備の方法とエンディングノートに記すべきこと

横田ちえ
イラスト
山中正大
UPDATE
2023/06/30/
遺言を書いている男性

自分の老後、そして人生の終わりについて考えたことはありますか? 生前整理と終活をしておくことは、自身はもちろん、家族のためにもなります。
終活の概要から、亡くなるまでにやっておくべきことや遺族に負担をかけないための生前整理の方法、エンディングノートの書き方などを終活コンサルタントの安藤信平さんに伺いました。

生前整理は終活の入り口と捉えるべし

――まず、終活の全体像について教えてください。

終活とは、今までの人生の整理と残りの人生を考えていくことです。車で例えると、老後資金、医療介護、葬儀・埋葬、相続と4本のタイヤが連動して終活が走っていると考えてください。その行き先を示してくれるカーナビがエンディングノートです。

生前整理を車に例えたイラスト

――こうして見ると一つ一つが重たいというか、大変な印象です。

「どこから手を付けていいかわからない」となってしまう方は、終活の一部である生前整理、つまり身の回りの物の整理から着手することをおすすめします。生前整理も終活の一部です。

生前整理を始めるタイミングは「50歳」と「子どもの独立」

――生前整理は何歳から取り組むのがいいでしょうか?

タイミングは二つあります。一つは50歳くらい。「早い!」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、50歳は社会的、家庭的に責任が一番重い時期であり物の量も多い年代です。しかし、体力も判断力もあるので、片付けもそこまで苦になりません。定年後には生活スタイルが変わると予想されるので、物を増やさないなどの対策も必要になります。

もう一つは子どもが独立したタイミング。子どもが独立すると2階の子ども部屋がそのまま物置になるケースは少なくありません。年を取ると階段が億劫になるので、子どもの独立を機に早めに片付けておくといいでしょう。

――なぜ生前整理をする必要があるのでしょうか?

高齢になり、筋力が衰えてくると転倒やケガのリスクが高まります。安全面から見ても家の中をすっきりさせる習慣をつけておくことが肝心です。
また、年をとると物への執着が強くなるので、捨てられなくなってしまうんですよ。それに整理しておけば、もし家の中が不自然に散らかり始めたときに認知症の初期症状を疑うこともできます。

――生前整理で「これは特に片付けておいた方が良い」という物はありますか?

写真ですね。思い出はなかなか捨てられないものですが、ある程度処分しておくことが大切です。遺された親族はもっと捨てにくいですから。
一方で、少し早いかもしれませんが遺影や葬儀に使う写真も決めておくと後々遺族の方が困ることもありません。

――最近は物だけでなく、写真やデータをデジタルで保存している方も多いかと思います。

家族や他人に見られたくない写真やデータなどあったら削除しておくなど、デジタル面の整理も怠らないようにしたいですね。また、ネットで契約しているサービスやパスワード類は、棚卸しして整理しておくべきです。サービスを解約したくてもパスワードがわからずに遺族が途方に暮れるケースも年々増えています。

エンディングノートが果たす「三つの役割」とは

――最初に「エンディングノートは終活の行き先を示してくれるカーナビ」とおっしゃっていましたが、本格的に終活に取り組む際に、どんなふうに行き先を示してくれるのでしょうか?

エンディングノートには三つの役割があります。

1. 自分らしく生きるための道しるべにする
人生100年時代の現代、自分のプロフィールや財産、やりたいことなどを可視化して、これからを生きるための指南書として活用する。

2. 現状を把握して将来のトラブルの早期発見や予防に役立てる
負債や注意すべきことなど、ネガティブ要素も記述する。問題が起きてから対処するのではなく、問題の火種をあらかじめ見つけて対処するために活用する。

3. 家族とのコミュニケーションツールにする
書いた内容や想いを共有して、必要な情報を伝えたりこれから先のことを話し合ったりするツールとして役立てる。

――自分らしく人生を全うするためのツールにもなるんですね。

エンディングノートがトラブルを未然に防いでくれる

――エンディングノートには、どんなことを書けばいいのでしょうか?

まず手始めに、自分のプロフィールや交友関係、家族への想いなど自分なりに書き始めてみるのがいいでしょう。立派なノートを買う必要はありません。最近はネットでダウンロードできるものもありますし、無料アプリなど手軽なものを活用してみるのもアリです。

――最低限、これは書いておいた方がいい情報はありますか?

「老後資金」「医療介護」「葬儀・埋葬」「相続」に分けて、情報を整理しておくと役立ちます(下図参照)。

エンディングノートに書くべき情報

――さらに書く上で意識した方がいい点はありますか?

いくつかあります。順番に説明しましょう。

●借金などのマイナスの資産
通常、相続放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3カ月なので、遺された家族が手続きをせずに負債を抱えてしまうということがないよう伝えておきましょう。

●終末医療・葬儀の希望
家族がデリケートな判断を迫られる終末医療や葬儀に関しては、自分の意思を記しておくことで親族の心の負担を軽くできます。また「何でもっと○○しなかったの?」という親戚などからの発言にも「本人が望んだ」と説明できます。

●転居地と年月(戸籍謄本)
本籍を何度か移している人は転居地と年月をすべて記載しておくと、後々書類を揃える時に役立ちます。隠れた相続人がいるケースが意外とあるため、自分の出生からの戸籍謄本をあらかじめ取り寄せておくとトラブル防止につながります。

●土地(特に農家など)
あちこちに土地を所有している農家などの場合、管轄の役所で名寄せ台帳を確認しておいた方がいいでしょう。農地は水路などが共有名義になっているケースもあるため、個人名義だけでなく共有名義の名寄せ台帳も確認しましょう。

以上、注意点をお伝えしましたが、何よりも大事なのは書いたことを家族に伝え、内容と保管場所を共有しておくことです。

――いざという時に大切な書類が見つからない経験、誰にでも身に覚えがあるはずです。きっちり場所を決めて整理整頓しておかないといけないですね。

また、エンディングノートは書きっぱなしにしないで、毎年見直しや上書きをしましょう。保険の保険証券など、関連書類や資料を一緒に保管しておけば書き換えがスムーズです。

相続税の控除、代償分割に役立つ終身保険

思い出の詰まったエンディングノート

――40代、50代が自分の終活に着手することで「自分の親はどうなんだろう?」「親にもエンディングノートを書いてもらいたい」と思うケースは多そうですよね。親にうまく勧めるにはどうしたらいいでしょうか?

私のところでもそういった相談が非常に増えています。普段の会話の中で「自分も書き始めたから一緒にやってみない?」と声をかけてみるのも手です。

その際、自分が生まれた時や小さかった頃のことを聞くのもいいかもしれません。親は子どもが小さい頃のことは喜んで話してくれるものですし、親子のコミュニケーションがぐっと深まります。

――なかなかそういう会話をしづらい親子関係も多そうですが、その場合はどうしたらいいでしょうか?

自分のエンディングノートを書く中で、
「皆さんが育った環境(家庭・地域・時代など)」
「親が生きてきた時代背景(考え方)」
を整理してみてください。
それらを書き出してみることで、親への理解が深まるかもしれません。

――参考になります。自分も相続人へ想いを伝えられるように書きたいですし、親にも想いを書いてほしいですね。

そうですよね。相続人が複数いる場合は、相続財産をどのように分けるべきか、整理してあげられるといいと思います。なぜなら日本の相続財産は不動産が多いからです。不動産は分けにくいので、トラブルの火種になりやすいんです。こんなとき、終身保険なら、相続税の控除としても使えますし、代償分割※にも役立ちます。

例えば長男に自宅を相続させる場合、長男を受取人とする終身保険に加入し、その保険金で他の相続人へ自宅の代償として現金で支払うというものです。人それぞれ家庭状況や財布事情があるとは思いますが、相続トラブルを防ぐための有効手段の一つではないでしょうか。
また、遺言信託契約という手段もトラブル回避には有効です。

※誰か1人の相続人が財産を取得して他の相続人には代償金を支払うことによって清算する遺産分割の方法

――終活と並行して検討してみても良さそうですね。

はい。いろいろお伝えしましたが、終活は家族のためだけではなく、自分がこれから先の人生を前向きに生きるためのものにもなります。できる範囲から始めてみてください。

【教えてくれた人】安藤信平さん
終活コンサルタント。長年、金融機関にて金融・保険・相続・年金・税金・ローン・不動産などの業務に従事したのち、53歳でファイナンシャルプランナーとして独立。自身の体験から「50歳になったらエンディングノート」と提唱し、終活のスタートからゴールまでをサポートしている。

安藤信平さん似顔絵イラスト

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