自転車保険、加入していますか?
自転車事故が深刻な事態を招きやすいことから、いま全国で自転車保険等の加入義務化が進んでいます。新潟県でも2022年10月1日から加入が義務化されました。保険に加入していないと、いったいどんなリスクがあるのかは気になるところ。自転車保険の必要性や選び方について、自転車の安全利用について詳しい自転車ジャーナリストの遠藤まさ子さんにお話を伺いました。
自転車事故は若いほどリスク大!?
自転車保険の内容はおろか、存在すらもよく知らなかった──。そんな方も少なくないかもしれません。
自転車保険加入の最大の目的は、自分自身のケガに備えるためではなく「損害賠償補償」です。万が一、自転車乗車中に事故を起こしてしまうと、賠償金等の支払いを求められるからです。賠償額は、相手の怪我・物損の程度や責任の大きさ(過失割合)によって決まりますが、場合によっては1億円近い金額の支払いを命じられることも……。
たとえば、2008年に兵庫県神戸市の児童(小学5年生)が夜に坂道を自転車で駆け下り、62歳の女性と正面衝突した事故では、児童(保護者)側に9,500万円の賠償責任命令が下されました。これほど高額になったのは、女性が頭を強く打って一命は取り留めたものの、重い障がいが残ったためです。「怪我の治療費や入院費だけでなく、生涯における介護費用の賠償責任も児童側にある」と裁判所に判断されました。
このように事故の加害者になってしまったとき、損害賠償を補償してくれるのが自転車保険です。
また、自転車事故を起こしやすい年齢層は、高齢層よりも若年層です。
その中でもとくに多いのは、通学に自転車を使うこともある中高生。自転車保険が義務化される背景にはこうした事情もあるようです。
事故防止に欠かせない正しい自転車選びと安全マーク
では、どんなシーンで自転車事故が起きやすいのでしょうか。
自転車事故の多くが、交差点で起きています。普段から通い慣れた道であっても、交差点では必ず一時停止をして安全を確認するのが大切。「自転車事故で亡くなられた方の8割は法令違反があった」という報告もあり、事故防止には交通ルールを守ることが鉄則となります。
また、新品で購入した自転車が1年以内に故障・破損して事故につながるケースも頻発しています。最近は、雑貨店や量販店、ネットショップでも自転車が売られていますが、お店によってはきちんと組立や最終整備がされていない恐れもあります。「走行中にペダルが外れた」「ブレーキが壊れた」といった事態に陥らないように、専門的な技術者にしっかり整備された自転車を購入することをお勧めします。
また、そもそも整備できる性能を有した自転車かどうかも大切なポイント。粗悪品の中には、部品がもろい・不足している/金属のバリが取れていないなどの理由で、いくら整備や修理をしても性能不足になってしまう商品も存在します。そんな粗悪品を購入しないための目安になるのが、BAAマーク。これは、一般社団法人自転車協会が「安心・安全な自転車」と認定した証で、フレーム強度、ブレーキの制動性能、リフレクターの反射性能……などの約90箇所の検査項目をクリアした自転車のみにシールが貼られています。また、万が一製造上の欠陥によって事故が発生した場合には、製造事業者または輸入事業者の責任で補償されます。
年に1回の点検でTSマークの取得を
自転車に乗るうえでBAAマークのほかにもうひとつ覚えておきたいのが、公益財団法人日本交通管理技術協会が発行するTSマーク。これは、自転車安全整備士が点検・確認した普通自転車に貼られるもので、「傷害補償」と「賠償責任補償」、「被害者見舞金(赤色のみ)」が付帯しているのが特徴です。協会で認定された自転車安全整備店で点検整備(有料)をすれば、認定してもらうことができます。
TSマークには緑・赤・青の3種類があり、保険の補償内容が異なります。(下記表参照)。有効期限は、どちらも点検日から1年です。年に1回点検を受けるように心掛けてください。
利用頻度を踏まえて自転車保険を選ぼう
2017年に自転車の利活用の普及促進を目的として、「自転車活用推進法」が施行されました。これを機に、「自転車保険加入の義務化」を条例に盛り込む自治体が増加。現在では大半の自治体が年齢を問わず、自転車利用者全員に対して加入を「努力義務」または「義務」としています。
新潟県では、2022年10月1日から加入が義務化されました。未加入者への罰則はいまのところありませんが、前述のように加害事故を起こした際には高額な損害賠償請求をされることもあるので、ぜひ早期の加入を検討してください。
自転車保険を選ぶ際のポイントは、やはり「賠償責任補償額の上限金額」。1億円以上のものであれば安心ですが、基本的に上限金額が高いものは、それに応じて保険料も高くなります。家族全員で加入すれば、割引されるプランもあるので、上手に活用してください。
損害賠償責任補償のほか、自転車保険のおもな補償内容は下記になります。
補償名 | 補償内容 |
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死亡保険金 | 自転車事故により死亡した場合に、死亡保険金を受け取れる |
入院保険金 | 自転車事故によりケガをして入院した場合に、給付金を受け取れる |
示談交渉サービス | 自転車事故を起こしてしまった際、賠償問題の交渉を保険会社が代行してくれる |
ロードサービス | 突然のトラブルなどで自力走行できなくなった場合、自転車を無料搬送してくれる |
弁護士費用の特約 | 自転車事故で被害を受けた際、損害賠償請求を弁護士へ委任した場合の費用を補償してくれる |
補償内容が手厚いものは、それだけ保険料が高くなるので、自転車の利用頻度と相談しながら選びましょう。たとえば、毎日通学で利用しているのであれば治療給付金がついた補償内容の手厚いものを。反対に週に1度乗る程度であれば最低限の補償内容で保険料の安いものを選択するといった考え方でしょうか。
また、自転車保険を選ぶ前に、まずはすでに加入している自動車保険などの契約内容を見直してみてください。これは既に加入している保険や共済の特約の中に自転車事故が補償対象になっている可能性があるためです。補償内容が重複しないように確認が必要です。
どれほど気をつけようとも、ペダルを踏んだ瞬間から事故のリスクは発生します。家族を守るためにも、万が一に備えて自転車保険について考えてみてください。