保険は若い頃に入ったからそのままで良い。今のままでも別に困らないし……と思っている方も多いのでは? ただし時間が経つにつれ、自分の健康状態や医療をめぐる状況はどんどん変わっていくもの。それに合わせて保険も見直す必要があるの!?
見直しのタイミングやポイントについて保険事情に詳しいファイナンシャル・プランナーの馬養雅子(まがいまさこ)さんに聞いてみました。
チェックすべきは「バランスと重複」
医療保険やがん保険って、定期的に見直しが必要と言われますよね。「20代で加入した保険は30代、40代で見直したほうが良い」とか「医療の変化にあわせて見直そう」とか。
服部
加入している医療保険・がん保険の保障内容が自分に合っていて、保険料の負担が重くなければ、見直さなくても大丈夫です。
FP・馬養さん
服部
病気やケガになるリスクは年齢を問わず誰にでもあるものですから、何歳であっても保障自体は必要です。ただ、民間の医療保険というのはあくまで公的な健康保険を補うもの。日本の医療の状況が多少変化したとしても、最低限の入院保障があればある程度医療費をカバーできるはずです。
FP・馬養さん
「30代になったから見直ししなきゃ」というわけではないんですね。見直しを怠ったばかりに保障が足りなくて困るということはないのでしょうか?
服部
日本は公的な保険制度が充実しています。医療費の自己負担割合は最大3割ですし、高額療養費制度があって1カ月の自己負担額には上限が設けられています。ですから、ケガや病気を健康保険でカバーできなくなったり、医療費で家計が破綻することは起こりにくいんです。
むしろ心配なのは、民間の医療保険の保険料を払いすぎて家計を圧迫してしまうケース。特に30~40代は教育費や住宅購入など、何かとお金がかかる時期ですから保険料にばかり出費を割いてはいられませんよね。見直すべきは保険料と家計のバランス、そして保障内容が重複していないかでしょう。
FP・馬養さん
【実例アリ】保障内容を拝見! どこをどう見直す?
保障内容の重複とは、例えばどういう状態を指すのでしょうか。
服部
実際の例を見ていきましょう。今回は「マネーまるわかり」運営スタッフのAさんが実際に加入している保険を拝見しました。
FP・馬養さん
運営スタッフ(38歳女性、既婚、子ども1人、会社員)の場合
保険料の支払総額:約13,000円
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1.医療保険 保険料:月 約2,800円 |
2.がん保険 保険料:月 約2,600円 |
3.医療共済 掛金:月 約3,000円 |
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基本的な保障内容 |
診断 |
― |
がん診断:100万円 |
― |
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入院 |
病気・ケガ:日額5,000円 女性疾病:日額10,000円 |
がん入院:日額10,000円 |
事故:日額5,000円 病気:日額4,500円 入院一時金:20,000円 |
通院 |
がん通院:日額5,000円 |
がん通院:日額10,000円
放射線治療:日額10,000円
抗がん剤治療:日額10,000円
ホルモン治療:日額10,000円 |
事故:1,500円 |
手術 |
手術:25,000円~50,000円 放射線治療:50,000円 集中治療:100,000円 |
がん手術:200,000円 |
【特】手術:50,000円~200,000円 |
特約など |
その他 |
【特】女性疾病入院給付金
【特】女性疾病手術給付金
【特】先進医療給付金
など |
【特】女性がん疾病給付金
【特】がん先進医療給付金
【特】がん先進医療一時金
など |
・死亡
・重度障害共済金 【特】先進医療共済金
など |
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※上記の他に、終身型の生命保険(月額約4,900円、保険金額300万円)の加入もあり
※保障内容一部抜粋、重複する保障内容は下線付きで表記
※特約は【特】と明記
Aさんは毎月約13,000円の保険料を支払っているおかげで、がんで入院したら3契約合わせて1日2万円近い給付金を受け取れます。ただ、内容をよく見ると入院保障やがんの放射線治療、女性疾病などの保障が重複していますね。必要な保障がカバーできる契約を残して、あとは解約しても良いかもしれませんね。
FP・馬養さん
ただ、保障内容を減らせばそのぶん入院日額は減ってしまいますよね。
服部
医療保険で入院日額は2万円も要らないような気がします。Aさんの場合は、重複している保障を減らすことで、毎月の保険料の負担を今よりも軽くできる可能性がありますよ。
FP・馬養さん
<馬養さんの見直し提案>
- 2のがん保険を主軸にして、1の医療保険の保障を減らす。3の医療共済は解約。
- 医療保険の保障を減らすのが難しければ、解約して入院保障だけのシンプルな別の医療保険に加入する。
見直しのタイミングは「働き方が変わったとき」
では保障内容の見直しは、具体的にどんなタイミングが適切なのでしょうか?
服部
以下の2つのとき、見直しを考えるタイミングと考えて良いでしょう。
タイミング1:会社員から自営業者・個人事業主になったときなど、加入する健康保険(公的医療保険)の種類が変わったとき
タイミング2:自分が契約している民間の医療保険の保障内容がわからなくなったとき
タイミング1が大切なのは、加入する健康保険の種類によって受けられる公的医療の内容が変わるからです。
FP・馬養さん
<公的医療保険制度の健康保険種類>
分類 (対象者) |
国民健康保険 (自営業・
フリーランス) |
社会保険(会社員・公務員) |
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医療費の窓口負担 |
原則、3割 ※義務教育就学前は2割 |
原則、3割 ※義務教育就学前は2割 |
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扶養制度 |
なし |
収入要件を満たす家族を自分の扶養者として同じ保険に加入させることができる |
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出産手当金 |
なし |
被保険者が出産のために会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合に受け取ることができる |
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傷病手当金 |
なし |
被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に受け取れる |
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その他 |
なし |
◆組合独自の「付加給付制度」がある場合
高額療養費制度に上乗せして医療費を払い戻してくれる制度
自己負担上限額は組合によって異なるが、月額25,000円程度に設定されている |
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※後期高齢者医療制度は異なります。
※各制度は各組合によっても異なりますので、ご注意ください。
健康保険の種類の違いで、保障が大きく違いますね。働き方が変わったらまず健康保険の内容を見て、医療保険の見直しをするか考えたほうが良いということでしょうか?
服部
そうですね。自営業やフリーランスは会社員に比べて公的な医療保障が薄いうえ、入院などで仕事を休むと収入が減ってしまいます。それを考慮して、医療保険の日額を多めにしておきます。
逆に、自営業・フリーランスの人が会社員になったときは、医療保障を減らすことができます。
それと案外多いのは、タイミング2の自分が契約している医療保険の内容をよく把握していないとか、忘れてしまった場合。これは一度しっかり確認・見直ししたほうが良いですね。なぜなら、医療保険の給付金は請求しなければもらえないものだからです。どんな時にいくら保険金・給付金が受け取れるのかを理解していないと、せっかく医療保険に入っていても給付金を受け取れない恐れがあります。
FP・馬養さん
Webなら自分のペースで見直せる!
医療保険とがん保険をご自身で見直すときは、以下を参考にしてみてください。
FP・馬養さん
<医療保険>
- 入院日額5,000円を目安に。
- 自営業やフリーランスで国民健康保険の加入者、地方住まいで病院までの交通費がかかる人、個室希望で差額ベッド代が気になる人などは、日額1万円があると安心。
<がん保険>
- がんと診断されたときにまとまった給付金が受け取れる「がん診断給付金」付きが良い。
- 医療保険にがん診断給付金を付けられるのなら、がん保険に入らずにがん診断給付金だけ特約で付ける方法もある。
なるほど。ただ、がん治療の場合、放射線治療や抗がん剤治療にもお金がかかりますよね。たとえ、高額療養費制度を利用した場合でも、一定の金額負担はありますし、通院等の費用も心配です。
服部
そうですね。特にがんの場合は、診断されたときの精神的なショックのケアに加えて、サプリメントやウィッグなどにお金を費やすこともあります。ある程度まとまった診断給付金があれば治療にも前向きに臨むことができるようになると思います。
FP・馬養さん
先ほどのスタッフAさんの例でもありましたが、先進医療や女性疾病といった保障を特約で付けるかどうかは、どう判断すれば良いのでしょうか。
服部
個人的に気になる保障があるのなら、納得できる範囲で特約を付けるのが良いと思います。ただし、家計全体を見て無理のない保険料であることが大切。特約を付けると保障は手厚くなりますが、保障内容自体をしっかり理解していないと給付金を請求できません。「わからないものは付けない」の姿勢で大丈夫!
FP・馬養さん
入院にかかる費用の相場はだいたい10~20万円。まかなえる貯金……ある?
なるほど。
最後に、見直しにあたって「知っておくべきポイント」というのはありますか?
服部
保険会社各社で契約者サービスを用意しているので、どんなサービスを利用できるのかをチェックしておくと良いですね。多いのは、24時間電話で健康相談できるサービス。小さいお子さんがいるご家庭だと夜中でも健康相談ができるので、役立つのではないでしょうか。また、「指定代理請求制度」と「家族情報登録制度」も知っておいたほうが良いでしょう。
FP・馬養さん
<見直し時に知っておきたいサービスや制度>
サービス・制度 |
内容 |
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契約者付帯サービス |
保険会社各社が用意している契約者のための独自の付帯サービス。24時間健康相談やセカンドオピニオンサービス、人間ドック・血液検査の優待サービスなどがある。 |
指定代理請求制度 |
保険の対象者(被保険者)が病気やケガ、認知症など特別な事情がある場合、あらかじめ指定した代理人が保険金・給付金を請求できる制度。 |
家族情報登録制度 |
大規模災害時などで保険会社が契約者に連絡が取れないとき、登録している家族に連絡をしてもらえ、保険金・給付金の請求漏れを防げる制度。 |
こうした保険の見直しは、自分のペースで簡単にできるのでWebからすることをおすすめします。入院日額を希望の金額で設定すれば保険商品を比較検討できるので、「わからないものは付けない!!」の姿勢を忘れずに、Webで入れる保険も検討してみてください。
FP・馬養さん
【教えてくれた人】ファイナンシャルプランナー 馬養雅子さん
オフィス・カノン代表。「個人のお金のアドバイザー」として金融商品や資産運用などに関する書籍や新聞・雑誌記事の執筆、金融関連企画へのアドバイス、講演などを行う。実用書の編集経験を活かしたわかりやすい説明が得意。