住宅ローンを利用する際に活用できる住宅ローン控除(減税)。マイホーム購入を検討している方にとっては、気になる点のひとつでしょう。
そこでファイナンシャル・プランナー(CFP ®)の市川貴博さんに、2025年以降の住宅ローン控除のポイントや賢く活用する方法についてお話を伺いました。
住宅ローン控除(減税)は減税効果が高い制度
ーーそもそも住宅ローン控除とはどのような制度なのでしょう。
住宅ローン控除は、住宅ローン残高の一定割合が所得税や住民税から直接差し引かれる「税額控除」という制度(正式名称は住宅借入金等特別控除)です。
世間一般では「住宅ローン控除」という言葉で知られていますが、「住宅ローン減税」とも呼ばれています。所得から差し引かれる「所得控除」とは異なり、税額が直接減るため、高い減税効果が期待できます。
2025年の制度は、年末時点の住宅ローン残高に対する0.7%が、その年に納めた所得税から控除される仕組みです。もしも所得税で控除しきれない場合は住民税から所得税の課税所得金額×5%(上限9.75万円)が控除されます。
ただし、あくまでもご自身が納めた税金の範囲内での減税であるため、控除額の全額が還付されるとは限りません。「0.7%」という数字だけが注目されがちですが、ご自身の納税額がいくらなのかを把握しておくことが重要です。
ーー実際にはどれくらいの減税となるのでしょうか。
あくまで目安ではありますが、住宅ローン控除の対象となる所得税と住民税の合計額を年収別に示してみましたので下の表をご覧ください。
【試算条件】
- 世帯主と配偶者の2人世帯
- 世帯主が住宅ローンの債務者となり配偶者は専業主婦
- 社会保険料は年収の15%と仮定
- 給与所得控除と基礎控除、配偶者控除は令和7年度分で計算
- 住民税は10%で計算
年収 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 | 合計控除額 |
---|---|---|---|
400万円 | 4.5万円 | 4.5万円 | 9万円 |
500万円 | 8.75万円 | 8.75万円 | 17.5万円 |
600万円 | 14.25万円 | 9.75万円 | 24万円 |
700万円 | 21.65万円 | 9.75万円 | 31.4万円 |
800万円 | 35.05万円 | 9.75万円 | 44.8万円 |
900万円 | 52.05万円 | 9.75万円 | 61.8万円 |
表の金額だけ見ると減税額は大きいなと思うかもしれませんが、減税となる最大の金額は年末の住宅ローン残高の0.7%なので、注意が必要です。
例えば、年末の住宅ローン残高が4,000万円だったとするとこの年に控除できる金額は、4,000万円(住宅ローン残高)×0.7%=最大28万円となります。なので、年収700万円以上の人は「合計控除額」が「28万円」を超えていますが、減税される金額は上限の「28万円」になるのです。一方で年収600万円の人は「24万円」となるため、差額分である4万円の住宅ローン控除額を使い切ることはできません。
ーー2025年現在、制度の具体的な適用条件や内容について、詳しく教えてください。
現行制度の主な適用条件は次の通りです。新築か中古か、また住宅の省エネ性能によって、控除を受けられる金額の上限などが設定されています。
制度の適用条件(新築・中古共通)
- 取得から6ヵ月以内に居住を開始している
- 控除を受ける年の12月31日まで継続して居住している
- 控除を受ける年の合計所得金額が2,000万円以内(※)
- 床面積が原則50㎡以上(※)で、1/2以上が自身の居住用である
- 住宅ローンの返済期間が10年以上である
- 入居した年とその前2年、翌年以降3年の計6年間に、居住用財産の譲渡による長期譲渡所得の課税特例などを受けていない
※2025年12月31日までに建築確認を受けた新築住宅で40㎡以上50㎡未満の場合、合計所得金額が1,000万円以下であること
借入限度額と控除期間:新築で2025年入居の場合(控除率0.7%)
住宅の性能区分 | 一般世帯 | 子育て・若者夫婦世帯 | 控除期間 | ||
---|---|---|---|---|---|
借入 限度額 |
年間最大控除額 | 借入 限度額 |
年間最大控除額 | ||
長期優良・低炭素 | 4,500万円 | 31.5万円 | 5,000万円 | 35万円 | 13年 |
ZEH水準省エネ | 3,500万円 | 24.5万円 | 4,500万円 | 31.5万円 | 13年 |
省エネ基準適合 | 3,000万円 | 21万円 | 4,000万円 | 28万円 | 13年 |
その他の住宅(省エネ基準を満たさない新築) | 対象外 ※経過措置あり |
ー | ー | ー | ー |
借入限度額と控除期間:中古住宅で2025年入居の場合(控除率0.7%)
住宅の性能区分 | 借入限度額 | 年間最大控除額 (一般) |
控除期間 |
---|---|---|---|
長期優良・認定低炭素・ ZEH水準省エネ・省エネ基準適合 |
3,000万円 | 21万円 | 10年 |
その他の住宅 | 2,000万円 | 14万円 |
ふるさと納税利用者は注意!
ーーうっかり見逃しがちなポイントがあれば教えてください。
多くの方が見落としやすいのが、確定申告とふるさと納税との関係です。
住宅ローン控除を初めて受ける際には、必ず確定申告が必要になります。前年にふるさと納税のワンストップ特例制度(確定申告をしなくても申請書を寄付先の自治体に送るだけで寄付金上限から2,000円を引いた額が住民税から控除される制度)を利用しても、その後に住宅ローン控除で確定申告をすると特例が無効になってしまいます。その結果、ふるさと納税の寄付金控除が受けられなくなってしまうため、ふるさと納税についても確定申告をする必要があります。
つまり、住宅ローン控除で確定申告をする前の年(2026年2~3月に確定申告をする場合は、その前年の2025年)は、ふるさと納税を利用する際にワンストップ特例ではなく確定申告を選択すると覚えておきましょう。
ーーふるさと納税も返礼品がもらえるのでついたくさん利用してしまいそうですが。
たくさん利用すればするだけいいというものではありませんし、特に住宅ローン控除と併用する際は、ご自身の納税額に基づいた計算が必要になるため、控除額(減税額)の計算がやや複雑になってきます。いずれにせよ、専門家に相談することをおすすめします。
2026年以降の住宅ローン控除はどうなる?
ーー2025年は前年からの現状維持とのことですが、気になるのは2026年以降の動向です。
正直なところ、2026年以降の制度がどうなるかは、現時点(2025年7月時点)では誰にもわかりません。住宅ローン減税は税制の一部なので、年末に発表される「税制改正大綱」で決まります。具体的なことは今年の年末になると見えてくるでしょう。
ーー制度は今後、どのようになっていくと予測されますか?
あくまで予測の域を出ませんが、今後の方向性として、住宅の省エネ性能による区別がより細分化される可能性が専門家から指摘されています。現在も性能の高い住宅ほど手厚い控除が受けられますが、将来的には断熱等級など、より細かい基準で控除額に差がつけられるかもしれません。
ーー制度自体はもちろん、景気を含めた世の中全体が先行き不透明な中で、これからマイホームを検討する方は、どのような心構えでいればよいのでしょうか。
大切なのは「自分の家を持ちたい」「こんな家に住みたい」という気持ちやご家族のライフプランを軸に住まいを選ぶことです。その上で、もし購入のタイミングで利用できる制度があれば積極的に活用しましょう。
制度の内容は複雑で、状況によって最適な選択は変わります。ご自身だけで判断するのは難しい部分も多いでしょう。住宅ローンを検討する際は、まずは最寄りの金融機関などプロに相談してみてはいかがでしょうか。